村正(むらまさ)と正宗(まさむね)と言えば、日本刀ファンで知らない方はいないと思います。
どちらも名刀として有名ですが、もし双方が戦った場合、どちらがより強い(斬れる)のでしょうか。
実際に試すのは難しいため、脳内でそんな妄想を繰り広げた方も、少なくないはずです。
今回はそれを試したエピソードを紹介。果たしてどっちが勝ったのでしょうか。
身体を張って師匠の技を盗んだ正宗

今は昔し、刀匠(刀鍛冶)の村正と正宗は、どちらも日本一と自認して譲らなかったそうです。
その正宗は修行時代、師匠から秘術を学ぼうとしましたが、師匠は決して教えてくれませんでした。
昔から技は「盗んで覚えろ」などと言うものですから、正宗は何とか盗んでやろうと必死に学びます。
ある時、正宗は焼入れ(※)の水温に秘密があるのだと気づきました。
(※)熱した鉄を水につけて急に冷やすことで、硬さを出す作業。
温度計などない時代ですから、自分で手を入れて実感するよりありません。
そこで正宗は師匠の隙をついて、焼入れの水に手を突っ込みました。
すると次の瞬間、師匠は刀を抜いて正宗の手を斬り落としてしまいます。
以来「てんぼう(※)正宗」と呼ばれるようになりました。
(※)手ん棒。手指が欠損して不自由な状態。現代では差別語とされる。
しかし水に手を突っ込み、斬り落とされる前に水温を記憶した正宗は、ついに秘術を体得できたのです。
そんなことがありました。
村正Vs正宗、試した結果は?

果たして村正と正宗はどっちが斬れるのか……ある殿様が、試してみようと思い立ちます。
試し斬りと言えば罪人の身体が相場ですが、斬り手の技量や集中力などが影響するため、正確ではありません。
そこで刀を川に立てて固定し、川上から流れてくるものが斬れるかで試してみることになりました。
春の雪解け水が勢いよく流れ、木だの枝だの何だのが、次々に押し寄せます。
まずは村正。大きな木や葉の茂った枝など、何が流れて来てもタテヨコナナメに斬り裂きました。
さすが村正はよく斬れる……ということで、続いて正宗はどうでしょうか。
すると川上から流れてくるものがみんな、正宗をよけてしまいます。
これは一体どういうことか……やがて大木が流れてきて、流石に当たるだろうと思ったものの、それさえ正宗をよけてしまいました。
殿様はその様子を見て、判定を下します。
「この勝負、正宗の勝ち!」
確かに村正はよく斬れる(戦えば強い)ことを実証しました。しかし正宗は戦わずしてその強さを相手に認めさせたのです。
戦わずに勝つとはまさにこのこと。殿様の判定に、誰もが納得したのでした。
終わりに
今回は村正と正宗について、どっちが斬れるかを試したエピソードを紹介してきました。
いたずらに敵を斬るより、そもそも斬らずにすむならそれに越したことはありません。
恐らくは正宗びいきの誰かが語り出した昔話なのでしょうが、それだけ正宗も村正と同じく人気だったことがわかります。
古来「神武不殺(しんぶふさつ。神の域に達した武力は、相手を殺さずに目的を達する)」とはよく言ったもので、無益な争いを避けるためにこそ、武力を備えることが肝要です。
※参考: