吉原細見「嗚呼御江戸」を世に送り出した蔦重こと蔦屋重三郎(横浜流星)。これがキッカケで出版の可能性に目覚めた蔦重は、初めての出版を手がけます。
その名は『一目千本(ひとめせんぼん)』。果たしてどんな書籍なのでしょうか。
NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第3回放送「千客万来『一目千本』」の予習にどうぞ。
一目でたくさんの花(花魁)を鑑賞
『一目千本』という書籍名には「一目で千本の花を鑑賞できる」という意味が込められていました。
書籍の中にはたくさんの花が描かれたものの、さすがに千本ではなく「たくさんの」という意味です。
挿絵は人気絵師の北尾重政(橋本淳)に依頼し、色鮮やかな花々が生き生きと描かれました。
しかしそれだけでは単なる植物図鑑に過ぎません。
そこは蔦重、花と言えば花魁(おいらん。最上級の遊女)であろう、と彼女たちを花に喩えたのです。
例えば「この美しい菊に喩えられる何某とは、どんな女性なのだろう?」と言った具合に、読者のイメージや期待感を膨らませたのでした。
トップクラスの通人だけが手にできる一冊(ステイタス)に
じゃあそれを売り出せばたちまち大ヒット……と思いがちですが、蔦重はもう一手を重ねて打ちます。この『一目千本』、何と非売品としたのです。
ふつう書籍は売るために出版するのであって、売らなければ何の意味もありません。ではなぜ?
蔦重は『一目千本』を吉原遊廓の中でもトップクラスの妓楼(ぎろう。遊女屋)にのみ配本。そして花魁から馴染みの上客にだけ贈らせたのでした。
つまり『一目千本』を読めるのは、吉原でもトップクラスの通人に限られます。
トップクラスの通人だけが手にできる『一目千本』とは、いったいどんな書籍なんだろう?
そうなると『一目千本』は吉原に通う遊び人たちのステイタスとして注目され、誰もが欲しがるようになりました。
かくして人々の購買意欲を引き出すだけ引き出した上で、いよいよ『一目千本』を一般向けに発売します。
いよいよ一般向けに発売!そこでも最後のひと工夫
さぁ『一目千本』は飛ぶように売れる売れる……しかし蔦重は最後のひと工夫を忘れません。
一般向けに発売された『一目千本』からは、花魁の名前が削られて花だけになっているのです。
単なる植物図鑑になってしまった『一目千本』。これでは、どの花魁が菊だか百合だか牡丹だか、わからないではありませんか。
それは遊んでみてのお楽しみ。最初から「誰が菊」「誰が百合」なんてわかっていたら、先入観がかえって興醒めというものです。
何なら正解なんて気にせず、あなた自身のランク付けをしてみるのも楽しいでしょう。
千本の花を堪能するまで、どうか心ゆくまで吉原遊廓をご堪能ください。そんな蔦重の商売精神と遊び心が感じられますね。
『一目千本』に登場する花と花魁を一部紹介!
せっかくなので、こちらに『一目千本』に登場する花と花魁を一部紹介いたしましょう。皆さんが好きな花はありますか?
- 鼓子花(ひるがお)
大ゑひや(大海老屋)・深山(みやま) - 姫百合(ひめゆり)
多満や(玉屋) 志津可(しづか) - 未央(ひやう・ビヨウヤナギ)
あふきや(扇屋) 七町(ななまち) - 燕子花(かきつばた)
松葉や(松葉屋) 染之助(そめのすけ) - 夾竹桃(きょうちくとう)
丁子や(丁子屋) 長山(ながやま)
終わりに
今回は蔦屋重三郎が初めて出版した『一目千本』について紹介してきました。
始めはあえて売らないことで話題を集め、通人のステイタスとして購買意欲をかき立てる戦略が斬新ですね。
そして一般向けに発売して投資を回収し、花を鑑賞するリピーターを育てる手法も興味深いものでした。
果たして大河ドラマでは『一目千本』の誕生劇がどのように描かれるのか、楽しみですね!
※参考文献:
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