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事業に不可欠の両輪とは?西郷隆盛かく語りき【南洲遺訓】

明治時代
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昨今はとかく「〜パ(パフォーマンス。合理性)」が謳われ、一見不合理とされるものは、何かと切り捨てられがちです。

もちろんコスパ(経済的合理性)やタイパ(時間的合理性)などの意識が、事業を運営する上で大切であることは、言うまでもありません。

しかしそれらもさじ加減で、合理性一辺倒で人格や精神を置き忘れてしまっては、理屈通りにはいかないものです。

今回はそんな世の風潮を懸念した西郷隆盛の言葉を紹介。現代に生きる私たちにも、大きな戒めとなるでしょう。

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誠に非ざれば動かず、才に非ざれば治まらず

西郷隆盛。石川静正筆(画像:Wikipedia)

三九 今の人、才識有れば事業は心次第に成さるゝものと思へ共、才に任せて為す事は、危くして見て居られぬものぞ。體有りてこそ用は行はるゝなり。肥後の長岡先生の如き君子は、今は似たる人をも見ることならぬ様になりたりとて嘆息なされ、古語を書て授けらる。

夫天下非誠不動。非才不治。誠之至者。其動也速。才之周者。其治也廣。才與誠合。然後事可成。

※『西郷南洲遺訓』より。

西郷先生はおっしゃるには。

「今時の人々は『才能や知識さえあれば、どんな事業もたやすく成功できる』と思い込んでいるようだ。しかし才気ばかりで事業を推し進めるのは、危なっかしくて見ていられたものではない。事業を成し遂げるには、体(たい)が備わっておらねばならん。例えば肥後の長岡(是容)先生のような人格者は、今や見かけることも叶わぬ」

と嘆かれ、私たちに古人の言葉を書いて下さった……。

夫天下非誠不動。非才不治。

(それ天下、誠に非ざれば動かず、才に非ざれば治まらず)

誠之至者。其動也速。

(誠の至る者、その動くや速し)

才之周者。其治也廣。

(才のあまねき者、その治まるや広し)

才與誠合。然後事可成。

(才と誠を合わせ、しかる後に事を成すべし)

【意訳】天下の事業を進める上で、誠意がなければ人の心は動かない。才能がなければ上手く行かない。

真の誠実さを持つ者は、やると決めたら行動が速い。

真に才能を備えた者は、その成果が広く行き渡る。

才能と誠意を兼ね備え、それからはじめて事業にとりかかるべきである。

……とのことであった。

まとめ

西郷隆盛。二代目長谷川貞信筆(画像:Wikipedia)

事業は人間が営むものであり、人間は利益や合理性ばかりでは動きません。

人間が実力を発揮するには真心が必要不可欠ですが、と言って能力が伴わなければ上手く回らないものです。

才能と人徳は一体不可分であり、何事を成すにも両輪となることは、今も昔も変わりません。

能力さえあれば、合理性さえあれば、後はどうとでも思いのまま……西郷隆盛はそんな驕りを戒めています。

※参考文献:

  • 山田済斎 編『西郷南洲遺訓 附 手抄言志録及遺文』岩波文庫、2009年7月
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