NHK大河ドラマ「光る君へ」皆さんも楽しんでいますか?
第30 回放送「つながる言の葉」で、物語作家デビュー?を果たしたまひろ(紫式部。吉高由里子)。デビュー作として劇中に登場した「カササギ語り」とはどういう物語なのでしょうか。
そもそも実在するのでしょうか。気になる方も少なくないと思います。
という訳で今回はまひろのデビュー作?「カササギ語り」について考察してみましょう。
【結論】恐らく大河ドラマの創作だが……?
結論から先に言うと、紫式部が「カササギ語り」なる物語を世に出した記録はありません。
恐らくは大河ドラマの創作であると考えられます。
とまぁここで話はそれまでなのですが、せっかく興味が出たのでもう少し掘り下げてみましょう。
『枕草子』より面白い?
まずは劇中で「カササギ語り」に言及したセリフを書き起こしてみました。
敏子「面白いというなら、先生の「カササギ語り」の方がはるかに面白うございますよ」
このセリフから「カササギ語り」は清少納言の『枕草子』よりも面白いことが仮定されます。
ただし個人の感想であること、またライバル?(※)を下げる&目の前のまひろを持ち上げる意図が含まれている点は注意する必要があるでしょう。
そして随筆と小説では「面白い」の基準が異なるため、比較する意味は薄いとも言えます。
「カササギ語り」のストーリーは?
まひろ「昔々、ある所に男と女がいました。男は身体が小さく病がち。女はふくよかで力持ち……私の見立てでは、いつの世も男というものは女よりも上でいたいもの。もしこの男と女が一緒になったら、一体どうなるのだろうか。ぜひ見てみたいと思った私は……」
まひろ「女のふりをしていた男は、ふりをしていた訳ではなかったのです。心から女になりたいと思っていました。そして男のふりをしていた女もまた、心から男になりたいと思っていたのです。私は嘘をついていた二人に試練を与えようと思っていたのですが、やめました。この二人がこの先どうなったかはカササギの知る所ではありませぬ。」
……劇中において、まひろが「カササギ語り」を朗読するのは以上の2場面。
前半はハッキリそうとは言っていないものの、ドラマの流れから全く別の物語を読ませるとは考えにくいため、どちらも「カササギ語り」と仮定しましょう。
「カササギ語り」の登場人物は?
「カササギ語り」における登場人物は以下の三者(他にもいる可能性はありますが)。
男:
身体が小さく病がち。何かの事情で女性のふりをすることになったが、内心では女性になりたいと心から望んでいる。カササギに対して何か嘘をついたらしい(恐らくは本心を偽る発言)。
女:
ふくよかな身体で力持ち。何らかの事情で男性のふりをすることになったが、内心では男性になりたいと心から望んでいる。こちらもカササギに対して男と同じく本心を偽る嘘をついたらしい。
カササギ:
本作の主人公であり語り手。元々他人であった男と女を引き合わせ、二人に互いに異性装をさせる「何らかの事情」を与えたと思われる。また嘘をついた二人に何らかの試練を与える力も持っているらしい。
「カササギ語り」ストーリーまとめ
……以上をざっくりまとめると、こんなところでしょうか。
カササギの力で引き合わされた男女がそれぞれ異性装を余儀なくされます。
表向きはそれぞれ渋々異性装をしていると言っているが、カササギはその本心を見抜きながら、それ以上は何もしませんでした。
何だか『とりかへばや物語』みたいですね。こちらは実在する物語で、やはり男女を入れ替えててんやわんやというストーリーです。
話を「カササギ語り」に戻して、果たして男と女はどちらの人生(性別)を選ぶのか?と言うのが、この物語のオチとなるのでしょう。
なぜカササギ(鵲)語りなの?スズメやカラスじゃダメなの?
物語のタイトルどおり「カササギ語り」の主人公はカササギ(鵲)という鳥です。
サギとつくから鷺の一種かと思いきや、別種(※)の鳥でした。
(※)カササギはスズメ目カラス科、サギはペリカン目サギ科とのこと。ただしもともと日本にはカササギがいなかったらしく、名前が伝わった当初は「サギとつくから鷺の一種なのだろう」と、鷺をもって充てることもありました。
なぜ本作の主人公はカササギなのか、スズメやカラスじゃダメなのかという疑問が湧くかも知れません。
伝承によると、カササギは七夕の夜に天の川へ橋をかける役割があるといいます。
天の川と言えば牽牛(彦星)と織女(織姫)が年に一度の逢瀬を遂げる日であり、その橋渡しをするカササギには男女の縁を結ぶ力があるようです。
男女を引き合わせるには打ってつけの存在として、「カササギ語り」の主人公に選ばれたのではないでしょうか。
性同一性障害がテーマ?
男になりたい女と、女になりたい男。
生まれ持った身体の性別と、自分が望む心の性別が異なる二人の人物を引き合わせたカササギの物語。
つまりこれは性同一性障害がテーマなのかも知れません。
紫式部がこのような願望を秘めていたのか、あるいは身近にそのような悩みを持っている者がいたのかは不明です。
あるいは単に大河ドラマの脚本家が昨今流行りのポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)に配慮したのかも知れませんね。
ただ紫式部の代表作『源氏物語』のラストは男女の性差を超越した境地を求めており、もしかしたら性差や性自認において課題を感じていた可能性も考えられます。
そんな模索の一環として「カササギ語り」は生み出されたのでしょうか。
『源氏物語』誕生の礎に?
……しかし、そんな「カササギ語り」は娘の藤原賢子に焼かれてしまい、思い出せなくなってしまいました。
※「カササギ語り」が創作であるのと同じく、賢子がそんなことをやらかしたというのも創作です。
重要データのバックアップなど容易にとれない当時にあって、大変な痛手だったことでしょう。
そこへやって来た藤原道長。何とか『枕草子』を超える物語を書いて、娘の藤原彰子が一条天皇の寵愛を得られるようにして欲しいと頼みます。
が、一度焼けてしまった物語はどうしても書き直せませんでした。
そこで生まれたのが『源氏物語』。実在した人物や事件をモチーフに織り込むことで、より多くの人々を惹きつけたようです。
リアリティには富むがあくまでフィクション。随筆『枕草子』と小説「カササギ語り」の中間を衝く娯楽性が話題となったのでした。
『源氏物語』の成立には、この「カササギ語り」のような世に出ない物語の存在があったのかも知れませんね。
終わりに
かくして『源氏物語』がヒットしたことで彰子は一条天皇の寵愛を勝ち取り、道長も一安心……という展開なのでしょう。大河ドラマでは。
ただし『源氏物語』の成立には諸説あり、夫を喪った悲しみから立ち直るために始めた創作が話題を呼び、道長の目にとまって彰子の女房にスカウトされた……という説が有力です。
もし「カササギ語り」が焼かれず世に広まっていたら、紫式部の評価は少し違ったものになったかも知れませんね。
果たしてNHK大河ドラマ「光る君へ」では、どんな展開が待っているのか、8月18日(日)の放送再開に期待しましょう!
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