NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」皆さんも楽しんでいますか?
第28回放送「佐野世直大明神」では、田沼意知(宮沢氷魚)が暗殺され、その悲しみから誰袖(かをり。福原遥)が闇堕ちしてしまいました。
劇中では鬼気迫る顔で、既に切腹した佐野政言(矢本悠馬)とその遺族を呪詛していましたが、一体どのようなものだったのでしょうか。
画面から知り得た限りの情報をベースとして、独自に考察していきたいと思います。
誰袖が唱えていた呪文(文字起こし)

……向こうは血花にさかすぞちらちらそわか
※第28回放送「佐野世直大明神」より。会話による中断部分はつなげています。
四方さんざら みじんと乱れやそわか
血花にさかすぞ ちらちらそわか
向こうは血花にさかすぞちらちらそわか
血花にさかすぞ ちらちらそわか
四方さんざら みじんと乱れやそわか
向こうは血花にさかすぞちらちらそわか
四方さんざら みじんと乱れやそわか
向こうはさんざらちらちらそわか……
基本的にはいくつかのフレーズを繰り返しているようなので、一つずつ見ていきましょう。
向こう①:相手。この場合は佐野政言とその一族。
向こう②:彼岸(あの世)。既に死んだ佐野政言に呪詛を届ける意か。
血花に咲かす:血の花を咲かせる。転じて死に至らしめる。全身から血を噴くイメージか。
ちらちら:花びらが舞い散る様子。桜のイメージか。
そわか:真言の接尾語として多く用いられる。サンスクリット語で「幸あれ」の意。
四方さんざら:さんざらは血が流れる擬音。四方に血が流れるイメージ。
みじんと乱れや:微塵のごとく乱れ散れ。
……当然ながら、聞くからに禍々しいフレーズのオンパレードですね。
誰袖の呪詛を現代語訳
以上を踏まえて、誰袖の呪詛を現代語に意訳してみましょう。
……彼岸にいる仇が全身から血を噴いて、飛沫が花びらのように舞い散る様子は、さぞ美しいことだろう。
あたり一面にザァザァと血を噴き散らし、残った肉も木っ端みじんに乱れ散ったら、どれほど気分がいいだろう。
血の花を咲かせてやりたい、花びらのような血飛沫をぜひとも見たい。
にっくき奴らがことごとく血を噴いて、飛沫の中で息絶えるまで呪ってやろう。
血の花を咲かせてやりたい、美しく舞い散る血飛沫をぜひとも見届けたい。
あたり一面を血の海として、木っ端みじんに砕け散れ。
にっくき奴らがことごとく血を噴いて、飛沫の中で息絶えるまで呪ってやろう。
あたり一面に血の花が咲き、肉が木っ端みじんに乱れ散るまで呪ってやろう。
にっくき奴らがザァザァと血を流し、ちらちらと飛沫の花を咲かせるまで……。
多少のアレンジこそあれ、実におどろおどろしい限りですね。
遣手婆の志げ(山村紅葉)が泣き出してしまうのも無理はありません。
呪詛の方法や道具など(大河ドラマ画面より)
さて、今度は誰袖が呪詛を行っていた現場の様子も確認しましょう。
画面から判明した限りのことをピックアップしていきます。
- 四方を注連縄で囲んでいる。
- 自身は白装束を着て、西の方角を向いて座っている。
- 自身の前に手鏡を置き、自身の顔が映るようにしている。
- 自身の前に紙を敷き、その中央に置いたわら人形を短刀で何度も指す。
- 敷いた紙には東西南北を書き、方角の間に鬼の字を入れて円形(わら人形を取り囲む形)にしている。
- 加えて敷いた紙の南北には九字切りが書いてある。また「佐野」の苗字が見える。
西の方角を向いて座っているのは、仇である佐野政言の墓所がある方角だからでしょうか。あるいは西方浄土に行った故人を引きずり戻す意図があるのかも知れません。
また手鏡で自分の顔を映すのは、どういう意味があるのでしょうか。鬼気迫る自分の顔を見たら正気に返ってしまいそうな気がしますが、あるいは却って自分の悲壮感を引き立てる意図も感じられます。
九字切り(九字護身法)とはヨコ5本とタテ4本の線で描いた格子で、魔除けとして使われることもありました。五芒星(☆型)と合わせたセーマンドーマン等が有名です。
この意匠には多くの目で魔物を見張る意味があると言われ、今回の呪詛では仇たちに「どこへ逃げようと必ず見つけ出し、呪い殺す」執念を表わしたのかも知れませんね。
劇中では、蔦重(横浜流星)に短刀を取り上げられてもなお、わら人形を何かで攻撃し続けていました。その無念が一日も早く晴らされることを願います。
終わりに

今回は田沼意知の死によって闇堕ちしてしまった誰袖の呪詛について、独自考察してまいりました。
初登場よりこのかた、いつも笑っていた彼女の鬼気迫る姿に、胸を痛めた視聴者も少なくないのではないでしょうか。
果たして蔦重は彼女の笑顔を取り戻すことが出来るのか、『手拭合(たなぐいあわせ)』による「仇討ち」に期待と注目が集まります。
次週の第29回放送「江戸生蔦屋仇討(えどうまれ つたやのあだうち)」に期待しましょう!