日本地図で北海道を見ていると、東側の海岸線は長くのびているのに対して、西側の海岸線は何となくゴツゴツした印象を受けないでしょうか。
アイヌの神話によると、これは女神と男神による国造り競争の結果なのだそうです。
なぜこういうことになったのか、今回はアイヌ神話の国造りエピソードを紹介したいと思います。
おしゃべりに興じた結果……

北海道(アイヌモシリ・人間が住む島)の国造りを行う際、創造神であるコタンカラカムイは二柱の副官に命じました。
二柱の副官はトゥレシマツという女神と、アイオイナという男神です。二柱は兄妹であるとも夫婦であるとも言われます。
「トゥレシマツは西海岸を造りなさい。アイオイナは東海岸を造りなさい」
コタンカラカムイの命を受けた二柱は、さっそく仕事に取りかかりました。しかし不思議なもので、どちらが言い出すともなく「どちらが先に仕事を終えるか」競争するようになったのです。
お互い負けたくない一心で国造りの仕事を進めていると、トゥレシマツの元へアイオイナの妹が訪れました。
彼女たちは仲がよかったので、トゥレシマツは仕事を放り出して、アイオイナの妹とおしゃべりに興じます。
「あれでね」「これでね」……楽しそうで何よりですが、一向に仕事を再開する気配が見えません。
いっぽうアイオイナは独り黙々と仕事を進め、東海岸の国造りをすっかり終えることができました。
「さて、トゥレシマツに勝てたかな?」
西海岸を見に行くと、ほとんど仕事が進んでいません。アイオイナがやって来た姿を見て、トゥレシマツはようやく競争していたことを思い出します。
大慌てで西海岸の国造りを再開したトゥレシマツは、何とか自分の仕事を終えることができました……が、その仕事ぶりはえらくぞんざいで、海岸線はゴツゴツしたものとなったのです。
こうして北海道の東側はなめらかな海岸線が多く、西側はゴツゴツした海岸線が多くなったのでした。
ちなみに競争に勝ったからと言って、アイオイナに褒美があった訳ではなく、負けたトゥレシマツも罰があった訳ではないようです。
ただし北海道の西側についてクレームがあった時は、創造神コタンカラカムイではなく、実際に作業したトゥレシマツが責めを負うようになったとか。
このエピソードからは「口より先に手を動かしなさい」という教訓が引き出されますね。
アイオイナの作戦勝ち?

ところで、競争の最中に都合よく登場したアイオイナの妹は、アイオイナが差し向けたのではないでしょうか。
兄妹の二人で力を合わせて早く東海岸を造り上げても、実力で勝ったとは言えません。だからあえてトゥレシマツの足を引っ張り、国造りの妨害をするために差し向けたのだと考えられます。
アイオイナからすれば、妹がトゥレシマツに寝返り、力を合わせて国造りを進めてしまうリスクも否定はできません。しかし女性が二人いれば、おしゃべりに興じないはずはなかろうと踏んだのでしょう。
かくしてアイオイナの作戦は功を奏し、見事に国造り競争を制することができたのでした。
終わりに
今回は北海道の地形について、アイヌの国造り神話を紹介してきました。
……もしだれかが西海岸の非常に荒涼とし、危険な状態について文句を言いたい気がしても、この問題でとがめられるのは、造物主自身ではなく、彼の副官であることを忘れてはならない。女神のおしゃべりな性癖が本当の原因なのである……
※ジョン・バチラー『アイヌの伝承と民俗』より
筆者など道外の人間にすれば、北海道の自然は西も東も荒涼として厳しく、危険なイメージしかありませんが……ともあれそれはコタンカラカムイではなくトゥレシマツのせいだ、とのことです。とは言え、いつまでも責められるのは、ちょっと可哀想な気もしますね。
もし皆さんが北海道を訪れる時は、彼らの仕事ぶりに思いを馳せてみるのも一興でしょう。
※参考文献:
- ジョン・バチラー『アイヌの伝承と民俗 新装版』青土社、2018年8月

