NHK大河ドラマ「光る君へ」皆さんも見ていますか?
主要キャラだけでなく、脇役たちも物語を彩る様子が話題を呼んでいるようです。
今回はそんな一人、第5回放送「告白」に登場した侍従宰相(じじゅうのさいしょう。演:ザブングル加藤歩)を取り上げてみたいと思います。
登場時間はほんの数秒、女性たちから「お顔の四角い」「たいそう富がおあり」とだけ言及された彼は、架空の人物だったとか。
しかし紫式部(役名まひろ)の歌集『紫式部集』によると、侍従宰相なる人物への言及がありました。
もしかしたら、彼が侍従宰相のモデルかも?さっそく読んでみましょう。
彼女に扇を贈った理由は……?
(九〇)
※『紫式部集』より
まこの(侍従)宰相の五せちつぼね、宮のかたへいとちかく(・)きに、弘徽殿の右京が、一夜しるきさまにてありしことなど、人々いひいでて、日かげやる。さしまぎ・(ら)はすべきあふぎなどそへて
後拾
おほかりしとよのみや人さしわけてしるき日かげを哀とぞみし
※(・)は余計な文字。ちかくに→ちかきに
※(ら)は・に代えて入れる文字。まぎ・はすべき→まきらはすべき
※日影(ひかげ)は太陽や陽光のこと。現代で言う日陰とは真逆の日向(ひなた)を指す。
【意訳】豊明節会に際して侍従宰相の出した五節の舞姫が、宮様と一夜ねんごろになった様子などを、弘徽殿(女御)に仕える右京という女房が言いふらしていた。
その浅ましさにうんざりしたので、彼女に扇を贈りつける。もちろん歌を詠み添えて。
「彼女もお気の毒なこと。宮様から格別のご好意を賜ったばかりに、それがすっかり晒されてしまうなんて(大意)」
……扇は扇(あお)いだり隠したりするもの。嫌な匂いを紛らわしたり、見られたくないものを伏せたりするのに使います。
(興味本位で下世話なことを言いふらして、少しは遠慮しなさい!)
果たしてこの皮肉が通じるか否か……たぶん通じないと思ったからこそ、紫式部は扇を贈ったのでしょう。
終わりに
今回は大河ドラマ「光る君へ」に登場した架空の人物・侍従宰相のモデル?かも知れない『紫式部集』の同名人物について紹介しました。
侍従宰相自身についての言及はほとんどありませんでしたね。仮にモデルだったとしても、名前だけ借りた感じでしょうか。
劇中では侍従宰相と五節の舞姫を務めた肇子(横田美紀)がよい仲となっていましたが、『紫式部集』では侍従宰相の娘?となっていますね(五節の舞姫は貴族の娘が選ばれることが多い)。
恐らく単なる偶然とは思いますが、架空の人物であっても、ネーミングには何かしらのキッカケがあるはずです。
これからも、こういう細かなところを掘り下げていきたいと思います。
※参考文献:
- 南波浩 校注『紫式部集 付大弐三位集・藤原惟規集』岩波文庫、2024年2月
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