NHK朝の連続テレビ小説、第114作は「風、薫る」。その主人公は一ノ瀬りん(いちのせ -)、演じるのはNHK大河ドラマ「光る君へ」で藤原彰子を演じた見上愛です。
本作は一ノ瀬りんと大家直美(おおや なおみ。演:上坂樹里)のダブルヒロインが演じる歴史ドラマで、それぞれ実在のモデルが存在しました。
一ノ瀬りんは大関和(おおぜき ちか)。大家直美は鈴木雅(すずき まさ)。どちらも幕末から昭和初期にかけて活躍した看護師(ナース)です。
今回は一ノ瀬りんのモデルとなった大関和について、その生涯をたどってみましょう。
バツイチワーママ、2児を抱えて看護師に

大関和は安政5年(1858年)4月11日、下野国黒羽藩家老・大関弾右衛門増虎(だんゑもん ますとら)と母テツの次女として誕生しました。
19歳となった明治9年(1876年)に同藩の次席家老・渡辺家の子息某と結婚、2児を出産します。
やがて離婚して子供たちの親権を勝ち取り、養育しながらキリスト教伝道者の植村正久(うえむら まさひさ)に英学を学びました。
明治19年(1886年)には29歳で桜井女学校付属看護婦養成所に入学。第1期生として鈴木雅と共に看護学を学びます。
翌明治20年(1887年)にはキリスト教の洗礼を受け、明治21年(1889年)の卒業後に日本で初めて看護師資格を取得しました。
その後は各地で看護師や伝道師などを勤め、また多くの重職を歴任。日本の医療界・教育界に多大な貢献を果たします。
大関和のキャリア例
- 帝国大学医科大学附属第一医院(現 東京大学医学部附属病院) 外科 看護婦取締役
- 高田女子高等学校(現 新潟県 上越高等学校) 伝道師・看護婦
- 東京看護婦会(鈴木雅が設立) 教師のち会頭(鈴木雅の後継者)
- 日本キリスト教婦人矯風会 理事 など
また永年の経験を集約した看護理論に関する書籍も出版しており、明治32年(1899年)に『派出看護婦心得』を、明治40年(1907年)には『実地看護法』を出版しました。
そして昭和7年(1932年)5月22日、75歳で生涯に幕を下ろしたのです。
大関和の略年表

- 安政5年(1858年)5月23日 誕生(1歳)
- 明治9年(1876年) 渡辺某と結婚(19歳)
※2児を出産後、離婚。親権を獲得。
その後 植村正久に師事。鈴木雅と知り合う。 - 明治19年(1886年) 桜井女学校付属看護婦養成所へ入学(29歳)
※アグネス・ヴェッチから看護学を学ぶ。 - 明治20年(1887年) 洗礼を受ける(30歳)
- 明治21年(1888年) 養成所を卒業、日本初の看護師となる(31歳)
※帝国大学医科大学附属第一医院の外科看護婦取締役に就任。 - 明治23年(1890年) 高田女子高等学校の伝道師・看護師となる(33歳)
- 明治29年(1896年) 上京し、東京看護婦会の教師となる(39歳)
※後に鈴木雅の後継者として同会の会頭に就任。
※後に日本キリスト教婦人矯風会の理事を務める。 - 明治32年(1899年) 著書『派出看護婦心得』を出版(42歳)
- 明治40年(1907年) 著書『実地看護法』を出版(50歳)
- 昭和7年(1932年)5月22日 死去(75歳)
終わりに

【物語】
※2026年度前期 連続テレビ小説「風、薫る」制作のお知らせ
明治18(1885)年、日本で初めて看護婦の養成所が誕生したのを皮切りに、次々と養成所が生まれた。そのうちの1つに、物語の主人公・一ノ瀬りんと大家直美は運命に誘われるように入所する。不運が重なり若くしてシングルマザーになった、りん。生まれてすぐ親に捨てられ、教会で保護されて育った直美。養成所に集った同級生たちは、それぞれに複雑な事情を抱えていた。手探りではじまった看護教育を受けながら、彼女たちは「看護とは何か?」「患者と向き合うとはどういうことか?」ということに向き合っていく。
りんと直美は、鹿鳴館の華といわれた大山捨松(おおやま すてまつ)や明六社にも所属した商人・清水卯三郎(しみず うさぶろう)らと出会い、明治の新しい風を感じながら、強き者と弱き者が混在する“社会”を知り、刻々と変わり続けていく社会の中で“自分らしく幸せに生きること”を模索していく。
養成所卒業後、二人は同じ大学病院でトレインドナースとしてデビュー。まだ理解を得られていない看護の仕事を確立するために奮闘の日々を送っていたが、りんは程なくして職場を追われることに。一方、アメリカ留学を夢見る直美は渡航直前に思わぬできごとに巻き込まれ・・・。
やがて、コレラや赤痢などさまざまな疫病が全国的に猛威をふるい始める。一度は離れ離れになった二人だったが、再び手を取り、疫病という大敵に立ち向かっていく。
今回は朝ドラ「風、薫る」のヒロイン・一ノ瀬りんのモデル大関和について、その生涯をたどってきました。
血縁関係にないダブルヒロインは朝ドラ初ということで、大家直美(上坂樹里)との関係がどのように描かれていくのかが大きな見どころとなるでしょう。
果たして一ノ瀬りんはどのような活躍を魅せてくれるのか、見上愛の好演に期待が高まります。
※参考文献:
- 田中ひかる『明治のナイチンゲール大関和物語』中央公論新社、2023年5月

