江戸時代に流行した浮世絵文化。その担い手は、必ずしも男性だけではありませんでした。
今回は18世紀(江戸中期〜後期)に活躍した、稲垣つる女(いながき〜じょ)を紹介。果たしてどんな女性だったのでしょうか。
彼女の姿はほとんど謎

……と言ってはみたものの、稲垣つる女の生涯については、そのほとんどが謎だらけ。
研究者の間でも、現存しているいくつかの作品から推測するしかない状態のようです。
とりあえず、推測も含めて分かっている限りをまとめましょう。
一、本名は稲垣千齢(ちとせ)。
一、画号の「つる(鶴)女」は、鶴は千年の慣用句から。
一、月岡雪鼎(つきおか せつてい)の影響を強く受けているため、その門人とも。
一、月岡雪鼎の門人であれば、大坂で活動していた時期がある。ただし大坂の出身かまでは分からない。
一、月岡雪鼎の活動時期から考えて、18世紀後半以降に活動したものと考えられる。
一、現存している肉筆画は、人形遣いを描いたものが複数ある。
とまぁ、このくらいでした。
後は生没年や家族、事績などについて、詳しいことは分かっていません。
稲垣つる女の主な作品

①人形遣図
- 所蔵:東京国立博物館
- 画法:絹本着色
- 制作:年代不詳
- 落款:稲垣氏つる女筆
- 備考:若い女性が虚無僧の人形を使う
②人形遣い図
- 所蔵:出光美術館
- 画法:絹本着色
- 制作:年代不詳
- 落款:稲垣氏つる女筆
- 備考:字曰千齢の朱角印
③人形遣い美人図
- 所蔵:個人
- 画法:絹本着色
- 制作:年代不詳
- 落款:稲垣氏つる女筆
- 備考:字曰千齢の朱角印
④立美人図
- 所蔵:ボストン美術館
- 画法:絹本着色
- 制作:年代不詳
- 落款:稲垣氏つる女筆
- 備考:垣氏之女と字曰千齢の角印
……等々。
終わりに

今回は江戸時代後期に活躍したと見られる謎の女流浮世絵師・稲垣つる女について紹介してきました。
ほとんどが謎に包まれ、残された手がかりは数点の肉筆画のみ。
せめて誰かが記録していてくれたらよかったのですが……。今後の究明がまたれますね。
※参考文献:
- 安村敏信 編『江戸の閨秀画家』板橋区立美術館、1991年8月
- 『東京国立博物館所蔵 肉筆浮世絵』東京国立博物館、1993年4月