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実は消滅の危機だった?『源氏物語』を復活させた「河内方」源光行・親行父子のエピソード

古典文学
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平安文学の最高傑作として当時はもちろん、現代でもファンの多い『源氏物語』。日本人のみならず20ヶ国語以上に翻訳され、世界各国で愛読されていると言います。

そんな人気作品であれば当然のごとく二次創作も出回るもの。多くのファンが好きな登場人物の後日談や別設定、サブエピソードなど、大いに想像の翼を羽ばたかせたことでしょう。

しかし、いきなりオリジナル設定を出してしまうと、原作ファンから顰蹙を買いかねません。

なので「写本するふりをして、自分の考えたオリジナル設定をちゃっかり盛り込む」という手口を使って創作意欲を満たしていたようです。

当時は印刷技術なんて皆無に等しいため、読みたい物語や書籍があれば、コツコツ書き写すしかなかった時代の苦労が偲ばれますね。

『源氏物語絵巻』より

しかしそんな手合いが尋常ならざる数に及んだため、一口に『源氏物語』と言っても「読者の数だけストーリーがある」的な状態に。

何と平安時代末期(12世紀ごろ)には、どのストーリーが紫式部による原作なのか分からなくなってしまったと言いますから、凄まじい話です。

二次創作が盛んな作品やジャンルは世に多くあるものの、二次創作のマーケットが原作を完全淘汰してしまった事例は『源氏物語』を措いてないのではないでしょうか。

それだけ絶大な人気を誇っていた証拠ではあるものの、このままでは『源氏物語』が流行の波に埋もれ、劣化ひいては風化してしまいます。

今回はそんな危機感から『源氏物語』を復活させた源光行(みなもとの みつゆき)・源親行(ちかゆき)父子を紹介。

現代の私たちが楽しんでいる『源氏物語』は、彼らの努力が結晶した賜物と言えるでしょう。

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親子2代・19年にわたる『源氏物語』復活事業

時は鎌倉初期の嘉禎2年(1236)2月3日。源光行・親行父子は『源氏物語』の復活事業に着手しました。

親行「しかし父上。現時点でどれが原作か分からなくなっているものを、どのように直すのでしょうか?基準がなければ直しようがないように思えるのですが……」

光行「うむ……問題はそこなんじゃが……」

さっそく行きづまった復活作業。しかし光行はくじけません。

『源氏物語』復活事業に苦心する源光行(イメージ)

光行「現時点で、世に出回っている『源氏物語』を片っ端から集めて、ひたすら精査するのじゃ」

光行の計画はこうです。すべての『源氏物語』について調べた上でストーリーや設定などをまとめ、多く共通するものを採用、矛盾のある設定やストーリーの破綻している部分などをそいでいきます。

そして最終的に過不足ない状態まで整え上げたものを『源氏物語』の公式ストーリーと認定するのです。

親行「理屈は分かりますが、それではもはや原作とは呼べないのでは……」

光行「百も承知じゃ。だからと言って現状を放置し、二次創作が粗製乱造され続ければ、遠からず『源氏物語』そのものが俗悪に堕してしまうではないか」

親行「やらない善より、やる偽善……ですね」

光行「そうじゃ。完璧な理想を求めてすべてを喪うことに比べれば、少しでもマシな状態で『源氏物語』を後世に受け継ごうではないか」

という訳でさっそく作業に取りかかった二人ですが、ひとまずの完成を見たのは建長7年(1255年)7月7日。実に19年以上の歳月が流れ、光行は寛元2年(1244年)2月17日に志半ばで亡くなっています。

ついに『源氏物語』を復活させた源親行(イメージ)

親行「父上……我らの『源氏物語』が、ついに完成いたしました!」

かくして世に出た『源氏物語』は、光行・親行が共に河内守(かわちのかみ)の官職を得ていたことから河内本(かわちぼん)と呼ばれ、決定版となったのでした。

一族は『源氏物語』研究の第一人者に

その後、光行・親行の子孫は『源氏物語』研究の第一人者(一族)として影響力を持ち、河内方(かわちがた)と呼ばれます。

河内方は『源氏物語』の本文だけでなく、総合的な注釈書を出すことにより、武士や庶民たちも『源氏物語』を楽しめるよう普及させました。

貴族たちにとっては当たり前の文化や制度、言葉などが武士や庶民にとっては未知の世界だったため、詳しい注釈を必要としたのです。

やがて室町時代に入ると河内方の血統こそ途絶えたものの、後続の研究者たちもその影響を多く受けています。

かつて平安時代の女房達が楽しんでいた『源氏物語』は、どんなものだったのか。吟光「紫式部略伝」

現代、私たちが楽しんでいる『源氏物語』が果たして原作どおりなのか否か、それは作者の紫式部(むらさきしきぶ)に聞いてみなければ分かりません。

それでも、かつて源光行・親行父子が2代19年にわたり復活させようと努力したことは事実。その賜物である『源氏物語』は、間違いなく多くの人々を感動させています。

※参考文献:

  • 伊井春樹 監修『講座源氏物語研究 第2巻 源氏物語の注釈史』おうふう、2007年2月
  • 鈴木一雄 監修『国文学解釈と鑑賞 別冊 源氏物語の鑑賞と基礎知識 29 花散里』至文堂、2003年7月

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