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どっさり積んだ蛤(ハマグリ)の数は?武田信玄が若き日に見せた将器の片鱗

古典文学
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戦国時代、「甲斐の虎」と恐れられ、あまねく天下にその勇名を轟かせた武田信玄(たけだ しんげん)公。

土佐光起筆「武田信玄公肖像」

文武両道の名将として今なお地元の山梨県をはじめ、全国でも高い人気を誇る信玄公ですが、その知略の片鱗を若い頃から現していました。

果たして、どんなエピソードがあったのか、今回はそれを紹介したいと思います。

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どっさり積まれた蛤の数は?

ある時のこと、駿河国(現:静岡県東部)の大名・今川義元(いまがわ よしもと)に嫁いだ姉・定恵院(じょうけいいん。実名は不詳)から、「女性たちの貝合わせにどうぞ」と蛤の殻がどっさりと届けられました。

「おぉ、こんなにたくさん!」

貝合わせで遊ぶ女性(イメージ)

山と積み上げられた蛤の殻は畳2枚分を埋め尽くし、ほのかに残る潮の香りに、山国育ちの晴信(はるのぶ。信玄公の俗名)はテンションも高まります。

家臣に数えさせてみたら、ざっと3,700枚ほど……もっとたくさんあるかと思っていたのに、ちょっとガッカリと言うか、何と言うか。

「意外と少なかったな……そうだ!家臣たちを呼んで数当てをしよう!」

晴信に呼ばれた家臣たちは、「何枚あるか、見積もってみよ」との謎かけに、ある者は二万枚か、一万五千か、まぁ一万は下るまい……など、めいめいに答えました。

「ふふふ……皆ハズレじゃ。正解はおよそ三千と七百ぞ」

ドヤ顔の晴信は、意外な顔をする家臣たちに続けて言います。

「わしはこれまで、兵の数こそが戦さの決め手と思うておったが、これからは少し考えを改める」

「と、申しますと……?」

「うむ。此度のごとく、数は少なくともこうして一まとめにすることで、わずかな兵を一万にも二万にも見せられるよう、思い通りに動かすことこそ肝要じゃ」

限られた兵を、最大限に活用(イメージ)

いかに少ない兵を効率的に運用するか。それがひいては敵との差、すなわち勝利につながることを体感的に学んだのでした。

これを聞いた家臣たちは「いやはや、頼もしき若君よ……」と恐れ入り、また晴信の将来を嘱望したということです。

終わりに

武田信玄晴信公、十三歳の御時、駿州義元の御前は、信玄の姉御にておはします。此の姉御の御方より母公へ、貝おほひのためにとて、蛤をおくりまゐらせらるゝ。
信玄公を勝千代殿と申す時なれば、御母公より上﨟をもつて、此の蛤の大小を屈従どもに申し付け、えりわけて給はれとの御幸也。即ち大をばえりて参らせられ、小き蛤、たゝみ二帖敷ばかりに大方塞り、たかさ一尺も有りつらん、是れを屈従どもにかぞへさせ給へば、三千七百あまりなり。其の時諸士参供せしに、此の蛤は、何程あらんと問はせ給ふ時、各有功の人々、二万或は一万五千などゝ申す、勝千代殿仰せらるゝは、人数は多くなき物ならん、五千の人数せ持つ人は、何をいたさんもまゝなりと、仰せられしをきくはどごとの人、したをふるはぬ者はなし。是れ信玄公、十三の御年なり。

※『甲陽軍鑑』品第六 信玄公御時代諸大将之事より

……以上が『甲陽軍鑑(こうようぐんかん)』の伝えるエピソードですが、定恵院が今川義元に嫁いだのは天文6年(1537年)、大永元年(1521年)生まれの信玄公が13歳(満12歳)の時点ではまだ嫁いでいません。

また、晴信が元服して初陣で勝利を飾ったのは天文5年(1536年)なので、姉が嫁いだ時点すでに晴信の将器は知られつつあり、もしこの蛤のエピソードが事実とするなら、別の方から送られたなど記憶がごっちゃになっているのかも知れません。

美しく描かれた蛤。

それはそうと、私事で恐縮ながら、筆者もこのエピソードを活かして物の数を言い当てた思い出があります。

子供の頃、町内会の夏祭りで「駄菓子用の広口ビンにびっしり詰め込んだ飴玉の数を当てよ。最も近かった者が勝利」というゲームが行われ、みんな思い思いの予想を紙に書いて投票したのでした。

777、999、1000、3000、5000……子供らしい「とにかくたくさん!」がそれぞれ書かれた紙が箱に入れられていくのを見て、直感で「これは500、いや300も入っていない」と見立てます。

そして確か150~160くらいの数字を書いて投票、結果が130くらいで優勝したのでした(次に近かった人が500~600くらい)。

もらった景品は覚えていませんが、昔の人の出来事は学んでおくものだな、と子供心に感じ、歴史好きにいっそう拍車がかかったのを今でも記憶しています。

※参考文献:

  • 小和田哲男『ミネルヴァ日本評伝選 今川義元』ミネルヴァ書房、2004年9月
  • 高坂弾正『甲陽軍鑑』温故堂、1893年6月

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