元亀元年(1570年)姉川の合戦、元亀3年(1572年)三方ヶ原の合戦、そして天正3年(1575年)長篠の合戦……徳川家康(演:松本潤)を窮地に追い込んだ三大合戦はなぜ起こったのでしょうか。
江戸幕府の公式記録『徳川実紀(東照宮御実紀)』を見ると、それは室町幕府の第15代将軍・足利義昭(演:古田新太)が裏で糸を引いていたと言います。
さっそく読んでいきましょう(面倒な方は原文を読み飛ばして【意訳】からどうぞ)。
義昭の野望ゆえに生まれた「信長包囲網」
……五年十二月十日 君も四位の加階ましまし。その廿九日右近衛権少将に任じたまふ。(当時天下の形勢を考るに織田殿足利義昭将軍を翊戴し。三好松永を降参せしめ。佐々木六角を討ち亡し。足利家恢復の功をなすにいたり。強傲専肆かぎりなく跋扈のふるまひ多きを以て。義昭殆どこれにうみくるしみ。陽には織田殿を任用するといへども。その実は是を傾覆せんとして。ひそかに越前の朝倉。近江の浅井。甲州の武田に含めらるゝ密旨あり。これ姉川の戦おこるゆへんなり。その明證は高野山蓮華定院吉野山勝光院に存する文書に見へき。また其後にいたり甲州の武田。越後の上杉。相模の北條は関東北国割拠中最第一の豪傑なるよし聞て。この三国へ大和淡路守等を密使として。信長誅伐の事をたのまれける。その文書もまた吉野山勝光院に存す。しかれば織田氏を誅伐せんには。当時 徳川家興国の第一にて。織田氏の頼む所は 徳川家なり。故に先 徳川家を傾けて後尾州へ攻入て織田を亡し。中国へ旗を挙んとて。信玄盟約を背き無名の軍を興し。遠三を侵掠せんとす。是三方原の大戦おこるゆへんなり。勝頼が時にいたりまた義昭より。北條と謀を同じくして織田をほろぼすべき事をたのまるゝ。その使は真木島玄蕃允なり。此文書又勝光院につたふ。是勝頼がしばしば三遠を襲はんとする所にて。長篠大戦のおこるゆへんなり。義昭ついに本意を遂げず。後に藝州へ下り毛利をたのまる。これ豊臣氏中国征伐のおこる所之。しかれば姉川三方原長篠の三大戦は。 当家において最も険難危急なりといへども。その實は足利義昭の詐謀におこり。朝倉武田等をのれが姦計を以て。また簒奪の志を成就せんとせしものなり。すべて等持院将軍よりこのかた。室町家は人の力をかりて功をなし。その功成て後また他人の手をかりてその功臣を除くを以て。万古不易の良法として国を建し餘習。十五代の間其故智を用ひざる者なし。終に其故智を以て家国をも失ひしこと豈天ならずや。)
※『東照宮御実紀』巻二 天正四年-五年「天正五年家康任叙四位右少将」「姉川三方原長篠戦乱之原因」
【意訳】天正5年(1577年)12月10日、家康が従四位下に昇進、29日には右近衛権少将に昇任する。
このころ、織田信長(演:岡田准一)は足利義昭を奉じて三好義継(みよし よしつぐ)・松永久秀(まつなが ひさひで)を降し、佐々木氏の六角義賢(ろっかく よしかた)を滅ぼして足利将軍家の威信を回復させた。
しかし義昭は信長の傀儡であることを疎ましく思い、表では感謝しつつ裏では越前の朝倉義景(あさくら よしかげ)、近江の浅井長政(演:大貫勇輔)、甲斐の武田信玄(演:阿部寛)に織田討伐の密使を送ったという。これが姉川合戦の原因である。
浅井・朝倉の滅亡後も甲州の武田、越後の上杉謙信(うえすぎ けんしん)、相模の北条氏政(ほうじょう うじまさ)を頼みに信長討伐の密使を送る。
織田家を討伐するためにはまず徳川家から、ということで信玄は家康との盟約を反故にして大義なき兵を挙げた。これが三方ヶ原合戦の原因である。
信玄の死後、その覇業を継いだ武田勝頼(演:眞栄田郷敦)に対しても義昭から「北条と組んで織田を滅ぼせ」と密使が向かう。これを受けた勝頼が三河・遠江へ侵攻。これが長篠合戦の原因となった。
長篠で勝頼が大敗したため本意を遂げられなかった義昭は京都を追われて安芸の毛利輝元(もうり てるもと)の元へ逃げ込んだ。これが羽柴秀吉(演:ムロツヨシ。木下藤吉郎)による中国征伐の原因である。
このように、姉川・三方ヶ原・長篠の三大合戦は徳川家における最大級の苦難であったが、その原因は義昭の野望に他ならない。
そもそも足利尊氏(あしかが たかうじ。等持院将軍)よりこのかた、室町将軍家は有力者を利用して成り上がり、用済みとなればその者を粛清して権力を固めてきた。
義昭まで15代にわたって伝統の策謀を廻らさぬ者はなく、ついに策士策に溺れたのである。これが天意でないはずがあろうか。
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終わりに
以上、足利義昭の野望と信長包囲網についてたどってきました。
織田の西から浅井・朝倉、東から武田……ひいては上杉や北条まで巻き込んだ大規模作戦でしたが、各勢力の連携がとれていたとは言い難く、信玄の死をもって次第に瓦解していきます。
NHK大河ドラマ「どうする家康」では足利義昭の陰謀をどのように描くのか、脚本によるアレンジが楽しみですね!
※参考文献:
- 『徳川実紀 第壹編』国立国会図書館デジタルコレクション
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