真田の生き残りを託された兄
真田信幸 さなだ・のぶゆき
[吉村界人 よしむらかいと]真田昌幸の長男。徳川との対立関係を解消するため、本多忠勝の娘を妻にする。関ヶ原合戦にあたっては、真田家存続のため、父と反目する家康に味方するなど、真田と徳川の間で葛藤する。
※NHK大河ドラマ「どうする家康」公式サイト(登場人物)より。
信州の国人衆として武田家に仕え、その滅亡後も生き残りをかけて必死に立ち回った真田家。
その棟梁・真田昌幸(演:佐藤浩市)は、それまで対立していた徳川家康(演:松本潤)と和解するため、家康の養女・小松姫(こまつひめ)を長男・真田信幸(演:吉村界人)の妻に迎えました。
彼女は本多忠勝(演:山田祐貴)の長女であり、父譲りの勝気さで知られたと言います。
今回はそんな小松姫と信幸の馴れ初め?を紹介。果たしてNHK大河ドラマ「どうする家康」では再現されるでしょうか。
ひれふす大名たちを一人ひとり……
家康は小松姫を大層かわいがっており、その婿には立派な男を迎えてやろうと考えていました。
そこである日のこと、家康は正室のいない大名連中を大広間に集め、小松姫に選ばせたのです。
「さぁ、姫よ。誰でも好きな者を選ぶがよいぞ」
「養父上、まこと有難う存じます」
という訳で、さっそく始まった小松姫の婿選び……というより男たちの品定め。
大広間一面に平伏している大名たちの顔を確かめようと、一人ずつ髻(もとどり。結髪)を掴んで持ち上げました。
現代に喩えるなら「顎クイ」でしょうか。それにしてもワイルドですね。
「ふん。どいつもこいつも、面構えがなっとらんな……」
大名たちにしてみれば、髻をつかまれて引き起こされ、挙げ句に面構えを否定されるというこの上ない侮辱。
(おのれ、この小娘が……!)
しかし、相手は間違いなく次の天下人となろう家康の養女。下手に逆らえば攻め滅ぼされてしまいます。
家族や家臣、領民たちのことを思えば、笑われようが見下されようが、ただひたすらに耐え抜くよりありませんでした。
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鉄扇で小松姫の顔面を……
そしていよいよ、信幸の番がやって来ます。小松姫はもういい加減に飽き飽きしながら、その髻に手をかけた時です。
(おのれ、虎の威を借る狐めが!)
我慢すべきと己に言い聞かせてはいたものの、どうしても耐えられなかった信幸は、とっさに懐中の鉄扇で小松姫の顔面を張り飛ばしてしまいました。
(あ、やってしまった)
周囲はみな呆気にとられ、信幸もふと我に返りますが、今さら後悔しても始まりません。
謝ったところで許されるでもなし、ならば武士の誇りを保って堂々と殺されてやろうじゃないか。
そう開き直った信幸は、背筋を正して座り直します。
「養父上!」
生まれて初めて殴られたのか、呆然としていた小松姫は、気を取り直して言いました。
「……わたくしが良人(おっと)として傅(かしづ)くべきは、この真田様をおいてございませぬ!」
いかなる権力にも阿(おもね)らず、武士たる誇りに生命を賭ける。そんな信幸の男らしさに、小松姫は惚れてしまったようです。
「あ、あぁ……姫が気に入ったなら何よりじゃ」
かくして小松姫は信幸の妻となったのでした。めでたしめでたし(ところで、鉄扇でぶん殴られたのは大丈夫だったのでしょうか)。
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終わりに
……という事ですが、実際には小松姫が嫁ぐ時点で、信幸には既に正室(真田信綱女。清音院殿)がいました。
※ただし小松姫が嫁いだ後、家女(側室扱い)となっており、徳川家に対する忖度があったものと考えられます。
また冒頭にも言及した通り、二人の結婚は真田・徳川両家の和解を目的としていたため、この婿選びエピソードは少し不自然ですね。
信幸に嫁いだ小松姫は四人(あるいは五人)の子供を産み、夫の不在中も真田の家を立派に支えたのでした。
……あれを見候へ。日本一の本多忠勝が女程あるぞ。弓取の妻は誰もかくこそ有べけれ……
【意訳】彼女を見ろ。天下一の豪傑・本多忠勝の娘だけはある。武士の妻ならば誰もが手本とすべき振る舞いである。
※『改正三河後風土記』
こと関ヶ原合戦(慶長5・1600年)に際してのエピソードは有名なので、是非とも大河ドラマでも演じて欲しいですね。
果たして小松姫は登場するのか、誰がキャスティングされるのか、今から楽しみですね!
※参考文献:
- 藤沢衛彦 編『日本伝説叢書 信濃の巻』国立国会図書館デジタルコレクション
- 黒田基樹『真田信之 真田家を継いだ男の半生』角川選書、2016年3月
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