仕事でいきなり大役を任された時、皆さんはどうしますか?
例えばプロジェクトのリーダーに指名されたり、重要な交渉を担当したりなど、なかなか大きなプレッシャーがかかると思います。
中には「下手な責任を負わされたくない」「失敗したくない」と尻込みしてしまう方もいるかも知れません。
しかし当局としてはあなたなら出来ると判断したから指名したのであり、いかなる仕事にも責任はつきまといます。
むしろ身に余る大役だからこそ、挑戦する価値があるというものではないでしょうか。
果たしてこの大役を、受けるべきか辞退すべきか……そんな悩みは江戸時代の武士たちも持っていたようです。
今回は江戸時代の武士道教本『葉隠(葉隠聞書)』より、奉公の心得を紹介したいと思います。
『葉隠』を読んでみる
一六○ 奉公人は、たゞ奉公にすきたるがよきなり。また大役を危ふき事と思ひ、引き取りたがるは迯尻、すくたれ者なり。その役に指されて、心ならず仕損ずるは虎口の討死同然なり。
※『葉隠聞書』第一巻より
【意訳】奉公する時は、私利私欲や雑念を捨てて臨むべきである。
大役を任された時に「失敗したら評価が下がる」「何なら切腹も有り得る」などと懸念して辞退するのは、迯尻(にげじり)のヘタレ(すくたれ者)と言わざるを得ない。
仮に準備や能力が不足しているために大役をし果たせなかったとしても、それは虎口の討死と同じ。名誉でこそあれ恥ではないのである。
……ということです。
武士たちの奉公
意訳に少し含めた通り、江戸時代の武士たちは、仕事の不始末で切腹を命じられるケースが少なくありませんでした。
中には本人にまったく落ち度がないにも関わらず、失敗した結果だけを責められて切腹を余儀なくされた事例もあります。
また多くの犠牲を払った場合では、任務完了後に責任者が自発的に切腹したケースもありました。
武士にとって、奉公はまさに生命を賭けて臨むものだったのです。
「たかが仕事で死ぬなんて嫌だ。生命あっての物種だ」
そう思うのも無理はありません。しかし武士の奉公は天下の公益を追求するもの。少なくとも建前上はそうでした。
死という重大なリスクを負うからこそ、為政者たる武士たちは領民の負託を受けて、政治の舵取りを担ってきたのです。
ちなみに文中「虎口の討死」とありますが、虎口(ここう)と言うのは城を攻める入口の一つ。進入すると三方から攻撃を受ける危険な箇所であることから、虎の口と呼ばれました。
大役をし損じて切腹するのも、虎口に飛び込んで討死するのも、主君のために生命を投げ出すことには違いありません。
ならば個人の対面や損得を度外視して、忠義をまっとうするまでのこと。
そう考えれば、大役に臨む勇気も湧いてくることでしょう。
現代人の仕事
……と『葉隠』は言いますが、私たち現代人からすれば、たかが仕事に生命なんて賭けられません。
※職場で「生命を賭ける」などのフレーズが出てきたら、そこは十中八九ブラック企業なので、早めの転職がおすすめです。
正直そこまでしなくていいと思いますが、つくづく平和なよい時代だと実感できますね。
失敗したって生命まではとられないと思えば、多少の失敗(リスク)は負っても大役を引き受けることで大きな成長(リターン)を得られるのでほないでしょうか。
時代によって負わされるリスクは異なりますが、仕事は大きいほどやりがいも成長も得られるものです。
もし今度大役を任されたら、喜び勇んで引き受けることで、大きく飛躍できるかも知れませんね。
※参考文献:
- 古川哲史ら校訂『葉隠 上』岩波文庫、2011年6月
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