大河ドラマ「豊臣兄弟!」皆さんも楽しんでいますか?
織田信長(小栗旬)の家臣として播磨攻略に赴くも、成果が思わしくなかったために更迭されてしまった荒木村重(トータス松本)。わしは摂津一国あれば十分と、妻だし(山谷花純)と仲睦まじく過ごしている場面が描かれていました。
いやいや、一国の主という身分は、それだけで並大抵ではありません。勝ち取るのはもちろん、維持することだって大変です。
ところで村重は、どのように摂津一国を勝ち取ったのでしょうか。今回は村重と信長の衝撃的な出会いのエピソードを紹介したいと思います。
饅頭こわい?織田信長が笑顔で突きつけたものは?

村重は摂津伊丹城主として足利義昭(尾上右近)に従って信長と敵対していましたが、やがて義昭を見限って信長に降伏しました。
信長と対面した村重は、自分を摂津国の主と認めるよう求めます。
「それがしにお任せ下されば、身命を抛(投げ打)って摂津一国を上様に従わせてご覧に入れましょう」
その言葉を聞いて、信長は莞爾(かんじ/にっこり)と微笑み、何も答えませんでした。どういう意味かと思っていると、信長は腰の刀を抜き放ち、かたわらにあった饅頭を3つも5つも串刺しにします。
「わしの気持ちじゃ。食え」
何と信長は、刀で串刺しにした饅頭を、村重に突きつけたのでした。下手に食えば口を傷つけてしまうでしょう。あるいは信長の気まぐれ一つで、開けた口へ刀を刺し込まれかねません。
危険極まるお戯れに、周囲の者は恐れおののきました。しかし村重は恐れる様子もなく「ありがたき仕合せ」と進み出て、串刺しのまま饅頭を食ってのけたのです。
村重がすっかり饅頭を平らげると、信長は初めて呵々大笑して「まったくそなたの豪胆ぶりには驚いた。よし、摂津国はそなたに任せよう。無事平定の暁には、摂津守に推挙いたそう」と約束しました。
かくして信長のお墨付きを得た村重は、期待通りに摂津国を斬り従えたということです。
摂津を失い、妻子を見捨て……村重の最期

攝州(摂津国)伊丹城主なり其先(そのさき)将軍義昭公に随従して春永(信長)に鉾楯(むじゅん)せしが義昭公の柔弱なるをうとんじ大多(織田)に降り春永の面前に出るに及んで村重の曰(いわく)己が領国摂州の地は総て十三郡分国なりて敵徒所々に城を構へ兵士を集む◆◆れ某(それがし)に切取の事を仰付られしかば身命を抛(なげうち)切鎮めるべしと言上なるに春永莞尓(かんじ)として答をなさず坐右と見たまふに高坏(たかつき)に饅頭を盛並しものあり腰刀を引抜切先に三つ五つ串貫(さしつらぬき)いうに村重我寸志なり食すべしとて目の上に差付たまふ一坐色を失なふ中に荒儀(荒木)聊(いささか)恐るるさまなく有がたしとにじりより大の口をくわつと開き切先に貫し饅頭を只一ト口(ひとくち)に食ん(くわん)となす春永大きに笑いたまひ聞及し汝(なんじ)が大膽(だいたん)我をかく驚せり望に任せ切取て摂津守たるべしと仰ければ村重面目を施し直(すぐ)に打立程なく一国を切従へしが後再び春永に叛き竟(つい)に伊丹の城を責落され圍(かこみ)を切抜一命を遁れ剃髪して一期を送りしとかや
※歌川国芳「太平記英勇傳 荒儀摂津守村重」
大変な豪胆ぶりで摂津一国を勝ち取った村重ですが、その後に謀叛を起こしたために滅ぼされてしまいました。
なぜ謀叛を起こしたのかは諸説あり、その一つがこの時の(犬のように饅頭を食わされる)屈辱に怨みを抱いていた、というものだそうです。
当人は逃げ延びたものの、妻子や一族郎党は皆殺しにされてしまいました。それでも生き延びて出家し、天正14年(1586年)5月4日に堺の地で世を去ります。享年52歳。
終わりに

村重は公方(足利義昭)の御味方として武勇世に許れし列将たり公方信長に叛きて大津瀬田(いずれも滋賀県大津市)に砦を築きしを信長(明智)光秀(丹羽)長秀らをして是を討せ自ら上洛したまふの時(荒木)村重(長岡)藤孝と倶(とも)に逢坂(滋賀県大津市)に出迎へ請て摂津守たらんとす信長佩刀に饅頭を貫き目先に出すを悠然として是を食す信長その膽力を賞し摂津守とはせり
※落合芳幾「太平記英勇傳 荒木摂津守村重」
……荒木村重逢坂に出迎へ織田家に随身し請ふて摂津守たらんとす信長佩刀に饅頭を貫き村重が目先に出すを悠然として是を食す信長その膽力を賞し摂津守となさり……
※大蘇芳年「本朝智仁勇鑑 織田上総介信長」
今回は荒木村重が信長から摂津一国を任されたエピソードを紹介しました。
この元ネタは軍記物語『絵本太閤記』で、史料としての裏づけはありません。しかし「暴君の信長ならやりかねない」「豪胆な村重ならやりかねない」という人々のイメージがあったのでしょう。
かくして武勇と胆力をもって摂津国の主となる野望を遂げた村重ですが、思わぬことから何もかも失ってしまう様子に、戦国乱世の無常感を禁じ得ません。
果たして大河ドラマ「豊臣兄弟!」では、村重の退場がどのように描かれるのか、心して見守りましょう。
※参考文献:
- 天野忠幸『シリーズ 実像に迫る 010 荒木村重』戎光祥出版、2017年6月
- 中西裕樹『中世武士選書第41 戦国摂津の下克上 高山右近と中川清秀』戎光祥出版、2019年8月

