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平安文学『源氏物語』最大級の悪役?弘徽殿女御にだって言い分はある!

古典文学
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平安時代の女流作家・紫式部(むらさきしきぶ)の代表作として名高い『源氏物語(げんじものがたり)』。

天皇陛下(桐壷帝-きりつぼてい)の子として生まれながら、政争に巻き込まれぬよう臣下の身分に降ろされた光源氏(ひかるげんじ。源光、光の君)が、天性の魅力と才幹で数々の女性たちと繰り広げる宮廷ドラマは、千年の歳月を超えて人々を魅了し続けています。

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桐壷更衣の死を嘲笑う悪女?

さて、ドラマを盛り上げるためには波乱がつきもので、光源氏の行く手をはばむ最大級の敵役として登場するのが弘徽殿女御(こきでんのにょうご)。

桐壷帝の正室であり、お世継ぎ(後の朱雀帝-すざくてい)も産んでその地位を盤石のものとしながら、後から出て来た身分の低い桐壷更衣(きりつぼのこうい)に寵愛を奪われ、更には光の君も産んでしまったものだからさぁ大変。

光の誕生(中央手前)を忌々しく思う弘徽殿女御(左)。歌川広重「源氏物語五十四帖 桐壺」

我が子の地位を脅かされてなるものかと桐壷更衣にあらん限りの嫌がらせをしかけ、光の君が臣籍降下によって皇位継承候補から外され、桐壷更衣が病死してしまった後もまだ油断ならぬとばかり、事あるごとに対立します。

風の音、虫の音につけて、もののみ悲しうおぼさるるに、弘徽殿には、久しく上の御局にもまう上がりたまはず、月のおもしろきに夜ふくるまで遊びをぞしたまふなる。いとすさまじう、ものしときこしめす。このごろの御けしきを見たてまつる上人、女房などは、かたはらいたしと聞きけり。いとおし立ちかどかどしきところものしたまう御方にて、ことにもあらずおぼし消ちてもてなしたまふなるべし。

※『源氏物語』第一帖「桐壷」より

【意訳】(桐壷更衣が亡くなってからと言うもの、桐壷帝は)風がそよいでも虫が鳴いても悲しみが深まるばかり……と言うのに、弘徽殿女御たちは帝を慰めにくるどころか、月見のために夜遅くまで、これ見よがしにドンチャン騒ぎ。その無神経さに、まったくうんざりさせられる。

とまぁそんな帝のご様子を間近で見ている者たちは、弘徽殿女御たちの様子を腹立たしく思っている(が、何ぶん身分が身分なので、物申すなどはできない)。

弘徽殿女御は日ごろから高飛車でトゲトゲしい性格であるから「更衣のごとき身分の低い女一人くたばったくらいで、何だと言うのだ」とバカにして、こんな嫌がらせ(もてなし)をするのであろう……。

愛する女性を喪って失意の中にある桐壷帝を嘲笑うかのような弘徽殿女御。実にイヤなヤツですね。

しかし、弘徽殿女御にしてみれば「もう私を愛していないなどと吐(ぬ)かした夫の愛人がくたばったから、何だと言うのだ。ザマぁ見ろ、むしろいい気味だ」などと思っていたのでしょう。

現代に置き換えてみれば、堂々と不倫をした夫の愛人が死ねば、そりゃ夫は悲しいでしょうが、不倫された妻としてみれば、そんな夫の悲しみに寄り添ってやるなんて、ちょっと考えられないのではないでしょうか。

(もちろん、当時の価値観とすれば「それでも夫の悲しみに寄り添うのが、女性としてあるべき振る舞い」なのでしょうけど)

妻として、母として

遠く都を離れ、謹慎する光源氏。尾形月耕「源氏五十四帖 十二 須磨」

その後も弘徽殿女御は何かにつけて光源氏と対立。光源氏のスキャンダルを衝いてあと一歩のところまで追い詰めながら、最後は逆転されてしまいます。

「命長くてかかる世の末を見ること」
と、取りかへさまほしう、よろづおぼしむつかりける。
老いもておはするままに、さがなさもまさりて、院もくらべ苦しく、堪へがたくぞ思ひきこえたまひける。

※『源氏物語』第21帖「少女」より

【意訳】「あぁ、いたずらに長生きなどするから、こんな惨めな思いをするのだ」と弘徽殿女御は愚痴をこぼし、昔の栄華に未練タラタラ。何もかもが面白くない。

桐壷帝が崩御された後、我が子・朱雀帝は異母弟(桐壷帝の子となっているが、実は光源氏の子)である冷泉帝(れいぜいてい)にアッサリ譲位してしまうし、にっくき光源氏はますます出世・大活躍……本当にくやしいったら!

そして老いに比例して意地悪な性格もエスカレートするものだから、朱雀院も手に負えず、実にうんざりさせられるのであった。

……かつて帝の正室としてお世継ぎも産み、絶対不動の地位を手に入れたと思っていたのに気づけば泥棒猫(桐壷更衣)に寵愛を奪われ、せっかく手にした皇位も我が子が手放してしまい……何もかも失ったその末路は、敵役のお約束。

「ザマぁ見やがれ、いい気味だ!」

そんな声も聞こえてきそうですが、もしもあなた自身が弘徽殿女御の立場だったらどうでしょう。

あなただったら、どうだろう(イメージ)

夫の愛情を完膚なきまでに奪い去った泥棒猫と、我が子の将来を脅かしかねないその息子……いささか度が過ぎてはいても、心穏やかに親切に接することは、なかなか難しいと思います。

妻として、母としての本能に従えば、程度の差はあっても、私たちも似たような行動をとったのではないでしょうか。

物事を片方から見ただけでは、その本質はなかなか解らないもの。悪役、あるいは脇役とされるキャラクターたちの視点にも立ってみることで、物語がより味わい深く楽しめるものです。

※参考文献:

  • 林望『源氏物語の楽しみ方』祥伝社新書、2020年12月

『源氏物語』の入門におススメ!大和和紀『あさきゆめみし』はこちら

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