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戦国武将も魅了した日本の美…中世日本のひらがな芸術「古筆」の世界

戦国時代
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突然ですが、ひらがな(平仮名)って不思議な魅力がありますよね(ね?)。

いろはにほへと ちりぬるを わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこえて あさきゆめみし ゑひもせす

色は匂えど散りぬるを 我が世誰ぞ 常ならむ
有為の奥山 今日越えて 浅き夢見じ 酔いもせず

これは有名な「いろは歌」ですが、漢字交じりで書いたものと比べてみると、ひともじ一文字を構成するやわらかな曲線が織りなす絶妙なバランスに、つい心惹かれてしまいますね。

(※もちろん、漢字にも漢字の魅力があるのですが、今回そちらは割愛)

ただし、ひと筆ごとがしっかりと連結しておらず、程よい距離感を読んで書かねばならないため、漢字に比べて書くのが難しいというデメリットは否めません。

なので昔から上手な人の筆跡はお手本として重宝されてきたのですが、そうしたお手本は時代が下るにつれて、平仮名そのものの美的価値が高く評価されるようになっていきます。

今回はそんな中世の書道美術「古筆(こひつ)」の歴史を見ていきましょう。

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古筆の定義とブームの起こり

まず古筆とは、古代の筆跡であれば何でもよい訳ではないようで、概ね以下の条件があるようです。

一、平安時代~鎌倉時代に書かれたもの
一、和様(わよう。日本流)の筆づかいで書かれたもの
一、主に平仮名書きであるもの(真名=漢字が入っていても可)

※僧侶が書いたものは墨跡(ぼくせき)と呼ばれ、別物とされる

古筆ブームの起こりは戦国時代末期、知識人らが名筆を単にお手本としてのみならず、美的鑑賞の対象として求めるようになりました。

侘茶(わびちゃ)の先駆者である武野紹鴎(たけの じょうおう)が天文24年(1555年)10月の茶会で、藤原定家(ふじわらの ていか。鎌倉時代)の小倉色紙(※)を床掛け(茶室の床の間に飾る掛け軸)に使ったことで、ブームを呼び起こしたと言います。

藤原定家「小倉色紙」の一つ

(※)おぐらしきし。定家が小倉百人一首に選んだ歌を一首ずつ書いた色紙。百首もあるから、状況に応じた使い分けができそうですね。

茶の湯の文化が次第に上流階級から庶民の間にも広がると、茶席に侘寂(わび さび)を添えるアイテムとして、古筆の人気も高まっていったのでした。

古筆の分裂!そして出回る偽造品?

さて、戦国乱世が遠く過ぎ去り、人々に文化活動を楽しむ余裕が生まれるにつれ、教養のステイタスとしても人気を高めた古筆ですが、今度はそれで問題が起こります。

問題その1:そもそも古筆なんてそんなに沢山ないよ問題
問題その2:だからって偽造するヤツ出てきたんだけど問題

雅やかな王朝文化の薫りを伝える古筆ですが、平安時代から鎌倉時代の文書や記録なんて、そもそも残っていること自体がまれです。

「う~ん、どうしよう……そうだ!」

思いついたアイディアの一つが、一枚の古筆を、分割して飾る方法。これを「古筆切(こひつぎれ)」とか、和歌が書かれていることが多いため「歌切(うたぎれ)」などと呼びます。

本阿弥光悦「小倉山荘和歌五首切」

「何だか、せっかくの文章が細断されてもったいないなぁ……」

「いいんだよ。どうせみんな文章の意味なんて深く考えず、平仮名のデザインが『何となくイケてる』って思ってるだけなんだからさ」

現代に例えるなら、意味はよくわからないけどAlphabet(アルファベット)やلغات اخرى(他の言語)で書いてあると何となくカッコいいと思ってしまうような感覚でしょうか。

これで一枚の古筆が何人にも売れる……まぁここまではまだ可愛いもの。よく解らなくても売れるのであれば……「そうだ、これを偽造すれば大儲けできるぞ!」……と考える残念な輩が出て来てしまうのは、今も昔も変わりません。

それっぽくカッコよく達筆っぽく書いた自称「古筆」を売る輩が出現し、今度はそれを見破るための鑑定マニュアルが売れる(あるいは鑑定士のニーズが高まる)という商売の連鎖。

よくも悪くも、新たなビジネスというものは、こうして生まれてくるのかも知れませんね。

終わりに

ひらがなの優美なデザイン性に着目し、美術品として人気を呼んだ古筆。

永い歳月を経た風格は素晴らしいものですが、現代に生きる私たちも、彼らとほぼ同じ文字を使い続けています。

一筆ひとふで、心を込めて。

そう思うと、日々の忙しさに書き殴ってしまいがちな文字の一つ一つにも、ほんの少し心がこもるかも知れません。

※参考文献:
村上翠亭『日本書道ものがたり』芸術新聞社、2008年4月
森岡隆『図説 かなの成り立ち事典』教育出版、2006年8月

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