NHK大河ドラマ「光る君へ」面白いですね!皆さんはどう感じていますか?
さて、物語が始まって約半年。主人公のまひろ(紫式部。吉高由里子)も28歳になりました(本作設定。諸説あり)。
現代ならまだまだ若い盛りですが、当時としてはかなりの嫁き遅r……ゴホンゴホン。
藤原道長(柄本佑)への想いをこじらせるのもほどほどにして、そろそろ婿をとって身を固めたいところですね。
そんな中、第23回放送「雪の舞うころ」では永年の腐れ縁?であった藤原宣孝(佐々木蔵之介)からついに求婚されました。
結論から言えばこのまま結婚するのですが、まさか越前までやって来る展開は、皆さん予想していなかったのではないでしょうか。
「あの男(周明)と宋へは行くな。わしの妻になれ」
宣孝はまひろの父・藤原為時(岸谷五朗)の同僚であり、まひろとは親子ほども年齢が離れています(20歳くらい)。
まるで『源氏物語』の光源氏と紫上みたいですが、どういう経緯で結婚に至ったのか、気になるところです。
そこで今回は『紫式部集』より、宣孝と紫式部のやりとりを紹介したいと思います。
平安貴族の結婚
始めに結婚の基本的な流れからざっくり見ておきましょう。
結婚は男性の方から女性へラブレターを送り、女性が嫌でなければ返事をします。
手紙のやりとりを数回繰り返すと交際成立となり、男性が女性宅を訪問することが可能となりました。
内々に同意を得た男性が女性宅を訪問すると、女性側の女房や下男たちが女性の寝室まで手引きしてくれるでしょう。
半ば公認だから堂々と来ればいいのに、あくまで夜這いの形をとるのが面白いですね。
果たして男女のことが済まされると、男性は夜が明ける前にお暇します。
そして後朝(きぬぎぬ)の文を送り、その晩も通うのです。
これを3日間繰り返すと、晴れて二人は夫婦となり、結婚の儀式に移ります。
もしこれらのプロセスを途中でやめてしまうと、男性が女性を捨てたことになるので注意しましょう。女性の怨みは恐ろしいですから……。
……『紫式部集』に記されているのは二人の文通シーン。どんなやりとりがされたのでしょうか。
「そろそろ雪どけの季節だね」
(二八)
年返りて、「唐人見に行かむ」といひける人の、「春はとくくるものと、いかで知らせたてまつらむ」といひたるに
春なれど 白嶺(しらね)の深雪 いや積り
解くべきほどの いつとなきかな
【意訳】年が明けて「宋の人たちを見に越前へ行きたい」と言っていた(けど来なかった)宣孝から手紙が来ました。
「春は雪どけの季節だから、我々の関係もより打ち解けるべきだと教えてあげたいな(意訳)」
要は「結婚しよう」という遠回しなメッセージですね。
悪い気はしませんが、ここでがっつくのははしたないから、お断りの返事を出しましょう。
「確かに春は来ましたが、北国の山々に積もった雪は当分とけそうにありませんね(意訳)」
宣孝がどのくらい本気なのか、見せてもらいたいところです。
さっそく浮気が発覚!あの千鳥野郎……。
(二九)
近江守の女懸想ずと聞く人の、「二心なし」など、つねにいひわたりければ、うるさくて
水うみの 友呼ぶ千鳥 ことならば
八十の湊に 声絶えなせそ
【意訳】と思っていたら、宣孝が近江守(おうみのかみ)の娘にちょっかいをかけているというではありませんか。
あの人は既に3人の妻と4人の子供がいるというのに、何をしているんでしょうか。
そんな噂がここ越前まで流れてくるのだから、よほど入れ込んでいるようです。
この前は「貴女以外に愛することはない」なんて言っていたくせに……。
「あぁそうですか。あなたは他の女にもちょっかいかけていたんですね。どうせなら琵琶湖じゅうの女という女に声をかけたらいかが?せいぜい声を涸らさないようにどうぞ(意訳)」
最後の一声はもちろん、自分に詫びを入れるため、とっておくよう願います。
文に手描きイラストを添える
(三○)
歌絵に、海人の塩焼く図(かた)を書きて、樵(こ)り積みたる投木(なげき)のもとに書きて、返しやる
四方の海に 塩焼く海人の 心から
やくとはかかる なげきをや積む
【意訳】まったく。結婚前から浮気しているようじゃ先が思いやられる……。
嘆かわしい未来の夫に対して、和歌を送ってやりましょう。
「あなたの嘆かわしさに呆れながら、海で塩を焼くための投木(なげき。流木)を積んでいます(意訳)」
投木は嘆きにかけ、積み重なる憂鬱を表現。せっかくだから、手描きのイラストもつけてあげました。
嫌いな相手にわざわざそんなことはしませんから、やはり満更でもなかったのでしょう。
果たして絵の出来はと言うと……とても個性的ですね!
「血の涙」を流す宣孝を一蹴!
(三一)
文の上に、朱といふ物を、つぶつぶとそそきかけて、「涙の色な」と書きたる人の返りごとに
紅の 涙ぞいとど うとまるる
移る心の 色に見ゆれば
もとより人のむすめを得たる人なりけり
【意訳】宣孝から文が届いたのですが、朱墨を数滴たらして「貴女が恋しくて、血の涙を流しているよ」とのこと。
まぁ四十も過ぎたであろう男のすることでしょうか……まったく。
「ご存知でしょうけど、紅色は移り気な色ですよね?浮気前から詫びを入れるつもりですか?」
今度はどこの女にちょっかいかける気なんでしょうね。
「最低!」手紙を他人に見せびらかす宣孝
(三二)
文散らしけりと聞きて、「ありし文ども、取り集めてをこせずは、返り事書かじ」と、言葉にてのみ言ひやりければ、「みな、をこす」とて、いみじく怨じたりければ、正月十日ばかりのことなりけり。
閉ぢたりし 上の薄氷(うすらひ) 解けながら
さは絶えねとや 山の下水
【意訳】信じられません。まさか宣孝が、私からの手紙を他人に見せびらかすなんて……。
「今まで寄越した手紙をすべて返しなさい!さもなくば、二度と手紙は書きません!」
さすがに悪かったと思ったのか、宣孝からは「悪かったよ。返せばいいんだろ、返せば」とのこと。
いや、まだ反省の色が足りませんね。今後のことも考えると、少し厳しめに接した方がいいでしょうか……。
ちょっとギクシャクしてしまう二人
(三三)
すかされて、いと暗うなりたるに、をこせたる
東風(こちかぜ)に 解くるばかりを 底見ゆる
石間の水は 絶えば絶えなん
【意訳】少し怒りすぎてしまったのか、宣孝からの返事は途絶えがちに。
このまま終わってしまうのは寂しいけれど、かと言って悪いのは宣孝。
しかしこのまま放置していたら、本当に関係が終わってしまうかも……。
「ようやく春風に氷がとけつつあったのに、肝心の水が涸れてしまうのでしょうか。あなたと言う人は、その程度に底の浅い愛情しかなかったのでしょうか」
果たして、この歌にどう出てくるか……。
宣孝の全面降伏で決着
(三四)
「今は、ものも聞えじ」と、腹立ちたれば、笑ひて、返し
言ひ絶えば さこそは絶えめ なにかその
みはらの池を つつみしもせん
【意訳】あぁよかった。宣孝から返事がきました。
「まだ怒ってなくはないけど、今回は私が折れるよ。それでも絶対許さないって言うなら、最悪の事態も仕方がないけどね」
そうそう、素直でよろしい。そうでなくてはいけません。
不束者ではございますが、どうか今後ともよろしくお願いいたします。
終わりに
(三五)
夜中ばかりに、又
猛からぬ 人かずなみは わきかへり
みはらの池に 立てどかひなし
ここまで来たら、後は形ばかり押したり引いたり、気楽なものです。
かくして正式な夫婦となる紫式部と藤原宣孝。
紫式部からすると、北国の暮らしに飽きてきていたタイミングでの求婚は、まさしく渡りに舟だったのかも知れませんね。
果たして大河ドラマ「光る君へ」では、二人のやりとりがどのように描かれるのか、楽しみですね!
※参考文献:
- 岡本梨奈『面白すぎて誰かに話したくなる紫式部日記』リベラル新書、2023年11月
- 南波浩 校註『紫式部集 付大弐三位集 藤原惟規集』岩波文庫。2024年2月
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