皆さん、蕎麦(そば)は好きですか?私事ながら、筆者は一日三食×一週間くらいなら飽きずに行けるくらいには好きです。
世の中には蕎麦好きがたくさんおりまして、今日も今日とて色んな形で蕎麦を楽しんでいるのですが、そんな一つに「蕎麦を唄おう」という試みがありました。
要するに蕎麦をテーマにした歌で、名づけて字のごとく「蕎麦音頭(そばおんど)」。ストレートなネーミングに、どんな歌詞がつづられているのでしょうか。
風味たっぷり忘らりょか……蕎麦の歴史や魅力を満載
「蕎麦音頭」は昭和11年(1936年)、大東京蕎麦商組合が設立25周年を記念して製作したと言います。その歌詞がこちら。
「蕎麦音頭」
作詞:田口勝三郎/作曲:渡辺浦人
唄:浅草吉奴、オーゴンレコード盤一、奈良の都は 養老の 御代尊い 御奨め 古き由緒に 薫る蕎麦
(※くり返し)アレ 風味たっぷり忘らりょか二、蕎麦の好きこそ 長命の 證し立つなり 栄養素 高く豊かに 消化よく
(※くり返し)三、地祭り棟上げ 引越しや 千代の契りに 煤払い 月の晦日も 縁起そば
(※くり返し)四、寒さ凌ぎや 暑さにも きまり時にも 間にも 食べて程よい 蕎麦の徳
(※くり返し)
日本人が好きな七五調のテンポが心地よさそうですね。これでもかと蕎麦の魅力が盛り込まれた歌詞の解説もしていきましょう。
一番の「奈良の都は……」というのは、奈良時代の養老6年(722年)7月19日、第44台・元正天皇(げんしょうてんのう)がこんな詔勅を発したことによります。
「今夏無雨苗稼不登 宣令天下国司勧課百姓、種樹晩禾蕎麦及大小麦、蔵置儲積以備年荒」
※『続日本紀』より
【意訳】今年の夏は雨がふらず作物の育ちがよくありません。ですから天下の百姓たちに命じなさい。晩稲や蕎麦および大麦小麦を植えさせ、備蓄を増やして凶作に備えるのです。
これが「養老=元正天皇の御代に出された尊い御奨め」。古代から有事の備えとして天下万民の支えとなった蕎麦のありがたみがよく解ります。
二番はそのまま「蕎麦好きは長生きできる。その証拠に栄養満点で消化も良い」と歌っておりますが、これが学術的に権威づけられたのは同年に開催された「そば展覧会」において。
東京・新宿三越で開催された同展では、佐々木林治郎(ささき りんじろう)東京帝国大学教授によって蕎麦の栄養価について発表され、広く一般に知られることとなりました。
それまでは何となく体感的に身体にいいと食べていた蕎麦が、やっぱり栄養的に根拠があるのだと信頼を獲得します。
三番はどうでしょうか。地域のお祭りや新築工事の上棟式、引っ越しのご挨拶に蕎麦を配る引越し蕎麦は現代でも行われていますね。
また千代の契りとは結婚のこと。煤払いは大掃除、月の晦日(みそか)は三十日つまり旧暦の月末(旧暦ではすべての月が30日)です。
晦日そば 残ったかけは のびるなり
【意訳】晦日そばの食べ残しは、かけつゆに漬かって麺がのびる(転じて、月末をやりすごせば、買掛金の支払いを翌月に延ばせる)。
狂歌
そんな縁起担ぎから、毎月末に蕎麦を食べる晦日蕎麦(みそかそば)の習慣が広がり、現代でも大晦日の年越し蕎麦として残っています。
そして四番。寒い時は温かく、暑い時は冷たくして、どっちでも楽しめる蕎麦。そして決まり時の三食でも、あるいはちょっとした間食にもいける蕎麦は、まさに万能食と言えるでしょう。
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終わりに
♪アレ 風味たっぷり 忘らりょか……♪
昭和11年(1936年)に横浜市で開催された全国麵業者大会では、唄と踊りが合わせて発表された「蕎麦音頭」。
もし音源があるならぜひ聞いてみたいし、振り付けが分かるなら、ぜひ踊ってみたいものです。
今年の盆踊りに、皆さんの自治町内会などでもいかがでしょうか?
※参考文献:
- 新島繁『蕎麦の事典』講談社学術文庫、2011年5月
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