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日本にもあった処女懐胎伝説。『古事記』が伝えるアカルヒメ(阿加流比売)のエピソード

伝承民俗
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通常、女性は男性と交わることで子をなすものです。しかし広い世界の歴史において、女性だけで子供をさずかった処女懐胎伝承が各地に存在しています。

有名なところでは、イエス・キリスト(紀元前4年ごろ生~西暦30年ごろ没)が知られていますね。

さて、そんな処女懐胎伝説は日本にも存在していました。今回は日本神話『古事記』から、アカルヒメ(阿加流比売)のエピソードを紹介したいと思います。

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昼寝していた下女を太陽の光が照らし……

……又昔。有新羅國主之子。名謂天之日矛。是人參渡來也。所以參渡來者。新羅國有一沼。名謂阿具奴摩〈自阿下四字以音〉。此沼之邊。一賎女晝寢。於是日耀如虹指其陰上。亦有一賤夫。思異其状。恒伺其女人之行。故是女人。自其晝寢時妊身。生赤玉。……

※『古事記』中巻「応神天皇記」

昔むかし、新羅国(しらぎ。朝鮮半島の古代王朝)にアグヌマという沼がありました。

ある日、一人の下女がそのほとりで昼寝をしていると、太陽の光が虹のように彼女の陰部へ差し注ぎます。

その様子を一人の下男が見ていると、次第に下女の腹がふくれ上がり、やがて赤い玉を生み出したのです。

生み出された赤玉(イメージ)

これは不思議なこともあったものだ……下男はどういう訳か、下女に赤玉をくれるよう頼み込みました。

何でこんなモノを欲しがるのか理解できませんが、とにかく関わり合いになりたくなかったようで、下女は赤玉を渡します。

「ありがとう、一生大切にするよ!」

「ぅゎキモっ……いいから早く行って下さい!」

ともあれ下男はたいそう喜び、もらった赤玉を肌身離さず持ち歩いていました。

そこへやって来たのが天之日矛(アメノヒボコ)。新羅国の王子ですが、彼はある時、下男に言いがかりをつけて殺そうとします。

「私の宝物を献上しますから、命ばかりはお赦しを……」

「よし、赦してやろう」

下男から赤玉を奪い取った天之日矛は、意気揚々と自宅に帰りました。

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赤玉が美女に変身。天之日矛の妻となるが……

……故赦其賤夫。將來其玉。置於床邊。即化美麗孃子。仍婚爲嫡妻。爾其孃子。常設種種之珍味。恒食其夫。故其國主之子。心奢詈妻。……

※『古事記』中巻「応神天皇記」

さて、帰宅した天之日矛は奪い取った赤玉を床に置きます。すると赤玉はたちまち美しい少女に変化したので、喜んで彼女を正室としたのでした。

赤玉から生まれた?美少女(イメージ)

「不束者ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします」

「うむうむ。よきに計らえ」

幼な妻は毎日よく働き、いつも天之日矛に珍しい料理を食べさせ、かいがいしくお世話します。

最初は喜んでいた天之日矛ですが、慣れてしまえばどんなご馳走も「いつもの食事」に過ぎません。
そのありがたみをすっかり忘れた天之日矛は、妻に罵声を吐くようになったそうです。

……其女人言。凡吾者。非應爲汝妻之女。將行吾祖之國。即竊乘小船。逃遁渡來。留于難波。〈此者坐難波之比賣碁曾社。謂阿加流比賣神者也〉

※『古事記』中巻「応神天皇記」

「……もう愛想が尽きました」

とうとう堪忍袋の緒が切れた妻は、「母の国に帰ろう」と夜逃げを決行。小舟に乗って日本へと渡り、難波の地にとどまったのでした。

これが難波のヒメゴソ社(※)に祀られているアカルヒメ(阿加流比売)の話です。

(※)ヒメゴソ社の比定には諸説あり、現代の比売許曽神社(ひめこそじんじゃ。大阪市東成区)・赤留比売命神社(あかるひめじんじゃ。大阪市平野区)・比売語曽社(ひめごそしゃ。大阪市中央区)などが考えられます。

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終わりに

さて、妻に逃げられた天之日矛は慌てて海を渡りますが、難波を目前にして浪速渡之神(なみはやのわたりのかみ)に阻まれてしまいました。

不貞腐れた天之日矛はタダでは帰らず、但馬国で国津神の娘と再婚するのですが、それはまた別の話し。

以上、古代日本における処女懐胎のエピソードでした。物語の始まりは新羅国でしたが、下女の故郷が日本ということなので、アリですよね?

また興味深い物語を発見したら、紹介したく思います。

※参考文献:

  • 西宮一民 校註『新調日本古典集成 古事記』新潮社、2014年10月

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