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【ネタばれ注意】ブエイ(武衛)っていいな!源頼朝公への敬称に込められた上総介広常の胸中【鎌倉殿の13人】

平安時代
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豪族たちは酒が回っていて、深酔いした広常が頼朝を呼び捨てにした。これはまずいと三浦義村が思案し、唐では親しい人を「武衛」と呼ぶと、広常に耳打ちした。「武衛」とは「兵衛府」を意味し、佐殿よりも尊称になるのがミソだ。

そこに、頼朝が満面の笑みを作って入ってきた。

早速、広常が盃を差し出した。

「ブエイ、俺もな、あんたと飲んでみたかったんだ」

頼朝が一瞬、驚き、うれしそうに酒を受けると、三浦義澄、和田義盛らが次々と周囲に集まってくる。

※「鎌倉殿の13人 あらすじ前編」第8回より

……時は平安末期の治承4年(1180年)、石橋山の合戦に敗れて房総半島へ逃れた源頼朝(みなもとの よりとも)公の元へ、2万騎とも言われる大軍を率いて馳せ参じた上総介広常(かずさのすけ ひろつね)

歌川芳虎「大日本六十余将 上総 上総介広常」

強大な勢力をもって頼朝公の捲土重来に大きく貢献したものの、坂東武者にふさわしい不羈独立の反骨精神ゆえに恐れられてしまいます。

そして寿永2年(1183年)12月、ついに謀叛の疑いにより粛清されてしまいました(後に冤罪と判明)。

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ブエイ(武衛)っていいな!頼朝公への親しみと敬意

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では頼朝公に心から忠誠を誓っていながら、近づけば近づくほど頼朝公から内心で恐れられ、ついには斬り捨てられるという悲しい末路を辿ります。

劇中では広常のみが頼朝公を「ブエイ」と呼ぶ設定です。

この「ブエイ」という響き、口にして見ると何だか「ブロウ(Bro、兄弟)」のようで、広常が好んで使ったと言う設定もリアリティが持てるようです。

その強さで周囲から恐れられる一方、朝廷さえも畏れない過激な反骨精神ゆえに忌避されていたであろう広常。

彼にとって、頼朝公はまさに主君でありながら可愛い弟(Bro)のような存在だったように感じられます。

「ナンデウ朝家ノ事ヲノミ身グルシク思ゾ。タダ坂東ニカクテアランニ、誰カ引ハタラカサン」

【意訳】坂東に君臨すれば、誰もお前(頼朝公)を見下したり、こき使ったりなどできまいに、どうしてわざわざ朝廷に取り入ろうとなどするのだ。見苦しい。

※『愚管抄』より

可愛い弟よ、この俺がお前を坂東の覇者にしてやる。だからもう京都に帰ろうとするのはよせ。天下が何だ、朝廷が何だ。この坂東で、俺たちと一緒に楽しく暮らそうぜ……。

歌川国芳「本朝水滸傅豪傑八百人一個 上総助広常」

それが広常の限界だったのかも知れません。でも、坂東武士にとって独立自尊こそが何よりの、命よりも尊い価値でした。

まったく違う作品ですが、三国志演義をモチーフにした漫画『蒼天航路(原作:李學仁、作画:王欣太)』に登場する呂布奉先(りょ ふ ほうせん)を彷彿とさせます。

どこまでも強いけれど極端な人格ゆえに忌避されて天下を戦い彷徨い続け、劉備玄徳(りゅう び げんとく)の元へ転がり込んだ時、どういう訳か玄徳を気に入って勝手に弟と認定するのです。

お、弟よ。の、飲め。
の、飲め。お、弟。

※『蒼天航路』第9巻より

劉備はそんな呂布を「こいつぁ侠の変種」とそれなりに評価するものの、内心では「哀しい男」と憐れみ、最後は「殺してくんな」と見捨てました。

(※これらは『蒼天航路』の独自設定であり、史実や『三国志演義』とは異なります)

また話は飛びますが、三国志と言えば「鎌倉殿の13人」で頼朝公を演じる大泉洋さんは映画「新解釈・三國志(監督:福田雄一)」で劉備を演じています。

「頼朝公もこういうイメージで演(や)って欲しいなぁ」と思っていたところへ三谷幸喜さんの脚本で「鎌倉殿の13人」が描かれ、頼朝公に大泉洋さんが抜擢されたと聞いて、ニヤリとしたのでした。

頼朝公と言えば、とかく「冷徹で陰険(ついでに恐妻家)」なイメージがあります。

確かにそういう一面もあるものの、別の面では劉備のような仁徳(たとえそれが表の顔であれ)を併せ持っていたことが、『吾妻鏡』などから読み取れます(それはまた、別のお話し)。

広常にとって、可愛い弟だった?ブエイ(武衛)頼朝公。神護寺蔵

おいブエイ。ブエイ(武衛)っていいな……可愛い弟を支え慈しむようでいて、その実まるで忠犬のように懐き、じゃれつく凶暴な広常。

それを前に、内心では恐怖・辟易していた頼朝公の姿が目に浮かぶようです。

「最も頼りになる者は、最も恐ろしい」

広元が頼朝と謀り、広常をあえて謀叛に加担させ、責めを負わせる図式に首尾よく当てはめた。
「上総介は言った。御家人は使い捨ての駒と。あいつも本望であろう」

義時はこのとき、頼朝の恐ろしさを肌で感じた。

(中略)

頼朝が政権を樹立するために礎石としたのは、頼朝の大願成就と太平を誰よりも望んでいた、上総広常の命だった。

※「鎌倉殿の13人 あらすじ前編」第15回より

過激で凶暴で、だけど人一倍誇り高くて情に篤く、そして誰よりも頼朝公を愛していた不器用な広常を演じるのは佐藤浩市さん。

そんな彼が熱演する広常の姿を想像するだけで、まだ登場すらしていないのに、泣けてしまいそうで本当に困ります。

※参考文献:

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