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【書評】倉本一宏『平安京の下級官人』講談社現代新書

歴史本
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皆さんは、もし生まれ変わる時代を選べるとしたらいつがいいですか?

……と聞かれたとき、少なくない方が「平安時代」と答えるのだとか。

やんごとなき方々の日常(イメージ)吟光「紫式部ノ略伝」

その理由は平安文学『源氏物語』に描かれるような、やんごとなき貴族たちによって織りなされる雅やかな王朝文化……あくせくすることなく、文字通り平安な暮らしがしたい……その気持ち、とてもよく分かります。

だがしかし、そんなものは幻想です。厳密には「ないことはないけど、私たち庶民の手には到底届かない」と言ったところ。

いやいや……平安貴族と一口に言ったって五位以上の「殿上人」と、六位以下の下級官人では、その境遇に天地ほどの差があるのです。

むしろわずかな俸給がため律令制度のしがらみに縛られ、その生活は庶民よりも息苦しかったかも知れません。

本書はそんな地べたを這いずる下級官人たちの暮らしぶりを、史料(古文書、古記録)から読み取ります。

下級官人の報われぬ日々(イメージ)

仕事をサボってわずかな役得をむさぼり、ささやかな権力を振りかざしては悦に入る……現代社会でもしばしば見かける「嫌なヤツ」ですが、彼らもまた必死に生きているのでしょう。

さらには地震雷火事親父と言った天変地異にもたびたび見舞われ、現代の比ではない惨状、平安京とは名ばかりの地獄絵図が繰り広げられました。

それでも古来「上に政策あれば下に対策あり」とはよく言ったもので、したたかに生き延びようと奮闘した下級官人や庶民たちの姿に、現代の私たちも大いに励まされることでしょう。

(前略)下級官人や庶民の生活を見ていても、平和な日本社会の姿が浮かび上がってくる。人びとは、時には暴力的な扱いを受けたり、災害に見舞われたりしているが、それらの事件が古記録に記されるということは、普段は平穏で安穏な日常生活を享受していたことの裏返しでもある。実際には平安京では、日常的にはもう少し平穏な日々がつづいていたであろうことを祈念してやまない。

(前略)平安京に生きた人びとも、我々と同じく日本に暮らす人間なのだということを、今回、改めて実感した次第である。周囲の環境や科学技術、生活様式は違っても、それに対応する心や頭の動きは、そうは変わらない。この本で描いた下衆や下人は、じつは我々みんなのご先祖さまだったのである。これも師匠の口癖ではないが、「世の中なんて、そんなに変わるもんじゃあない」のであった。

※本書「おわりに 平安京の日々」より

色々と大変で、落ち込むことも多いけれど、私たちは元気です……そんなご先祖さまたちのメッセージが感じ取れるこの一冊。

是非ともお手に取っていただければと思います。

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本書の内容

筆者撮影

※目次よりピックアップ

・平安人事事情
・年中行事の「失儀」
・懈怠する官人たち
・武力による紛争解決-闘乱
・平安京の殺人事件
・盗人たちの都
・事故と平安貴族
・諸芸の人びと
・遊興にふける
・男と女の間には
・おわりに 平安京の日々

【書籍データ】

筆者撮影

『平安京の下級官人』

  • 著者:倉本一宏(くらもと かずひろ)
  • 出版:講談社
  • 発行:2022年1月20日 第一刷
  • 著者紹介:
    1958年、三重県津市出身。日本古代政治史、古記録学を専門とし、主著に『現代語訳 小右記』『藤原道長の日常生活』『内戦の日本古代史』など。

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