お市と家康をつなぐ浅井家の侍女
※NHK大河ドラマ「どうする家康」公式サイトより
阿月 あづき
[伊藤蒼 いとうあおい]
貧しい下級武士の娘で、つらい生活を送っていたところを、北近江・浅井家に嫁いだお市に助けられ、侍女として献身的に仕える。越前・朝倉義景と戦うため、織田・徳川軍が金ヶ崎に向かう中、浅井家の混乱を察した阿月は、お市にあることを申し出る。
新キャスト発表で、ますます盛り上がってきたNHK大河ドラマ「どうする家康」。北近江の浅井家に仕える侍女・阿月(あづき)。伊藤蒼さんが演じる彼女は、いったい何者なのでしょうか。
結論から言うと阿月はオリジナルキャラクター(架空の人物)のようですが、あえて登場させるのには理由があります。
今回はそれと思しきエピソードを紹介。果たして阿月はお市(演:北川景子)に何を申し出たのでしょうか。
信長は「袋の小豆」……お市からのメッセージ
時は元亀元年(1570年)、織田信長(演:岡田准一)は越前国の朝倉義景(あさくら よしかげ)を攻めました。
「浅井殿、徳川殿もご加勢下され!」
そう言われて二つ返事に兵を出した徳川家康(演:松本潤)。一方、浅井長政(演:大貫勇輔)はどうも気乗りがしないようです。
と言うのも、浅井・朝倉両家は永年にわたる水魚の交わりをもっていたから。妻(お市)の実家である織田家と、永年の盟友である朝倉家との板挟みになってしまいました。
「……よし。織田殿には悪いが……」
朝倉に味方すると決断した長政は、急ぎ兵を出す支度を整えます。信長は自分が裏切るとは微塵も思わず、完全に目の前の朝倉勢へ気をとられているようです。
(このままでは、兄が討たれてしまう。何とかして長政殿の裏切りをお伝えせねば……)
長政の肚づもりを知ったお市は、急いで信長に使いを出します。
「……ん、お市から差し入れとな?」
信長が受け取った包みの中には、好物の小豆(あずき)がたくさん。入れ物は袋かと思ったら筒の両端を縛ってありました。
「小豆はおやつに茹でろとでも言うのじゃろうが、何でわざわざこんなものに入れて送ったのか……」
その時、信長はひらめきます。両端が縛ってあるということは、つまり前と後ろをふさがれている……まさに「袋の小豆」すなわち挟み撃ちです。
今、信長の前には朝倉勢がいて、後ろからやって来るのは……「裏切りおったな、長政!」完全にガラ空きな背後を襲われたら、ひとたまりもありません。
「すぐに兵を引き上げる!猿、そなたに殿軍(しんがり)を任せる!」
「へい!お任せを!」
木下藤吉郎(演:ムロツヨシ)にわずかな兵を預けると、取るものもとりあえず信長は退却。一気に尾張国まで逃げ帰りました。
「殿、織田勢が退却して行きますぞ!」
その様子を見ていた徳川勢では、にわかに動揺が広がります。
「何だと、我らに何の報せもなく言い出しっぺが真っ先に逃亡とは……殿、我らも急ぎ引き上げましょう!」
モタモタしていたら敵の餌食になってしまう。そんな中、家康は殿軍として孤軍奮闘していた藤吉郎の救援に駆けつけました。
「木下殿、お助け申す!」
「これは徳川様、ありがとうごぜぇやす!」
力を合わせて浅井・朝倉連合軍を何とか撃退。這々のていで尾張国まで帰り着いたこのエピソードを「金ヶ崎の退口(かねがさきののきぐち)」と言います。
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終わりに
(前略)……織田・徳川軍が金ヶ崎に向かう中、浅井家の混乱を察した阿月は、お市にあることを申し出る。
※NHK大河ドラマ「どうする家康」公式サイトより
以上、金ヶ崎の退口における「袋の小豆」エピソードを紹介してきました。阿月(あづき)の名前は小豆(あずき)からとっており、彼女の申し出た「あること」とは、恐らく「信長・家康に浅井の裏切りを告げる」ことを指していると考えられます。
命懸けで伝令任務を果たし、力尽きるか殺されるかして退場……そんな役回りではないでしょうか。
ちなみに、この「袋の小豆」エピソードは『朝倉家記(『朝倉始末記』の異本)』にしか記されておらず、後世の創作と見られています。
……朝倉浅井両端ヨリ我軍勢ヲ一騎モ不残可討取トノ策鏡ニカケテ覚タリ是ヲタトフルニタトヘハ袋ヘ小豆ヲ入跡先ヲ結切テ一粒モヽレサル如クナルヘシ長政カ室家我ニ此㕝ヲ悟レト思フハカリコトニ此小豆ヲ送レル也妹ナカラモ此知慮ハ男子ノ及フ業ニアラスト涙クミテ申サレケレハ一族家老ノ面々モ兄弟のナサケヲ感し鎧ノ袖ヲソヌラシケル……
※『朝倉義景記(朝倉家記)』
果たして阿月がどんな活躍を魅せるのか、NHK大河ドラマ「どうする家康」での登場が楽しみですね!
※参考文献:
- 小和田哲男『浅井長政のすべて』新人物往来社、2008年8月
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