♪オンベレブンビンバ~♪
政子「さっきから何なの、それ?」
時政「ホラ、昔し大姫が教えてくれたろ?これを唱えるといいことがあるって」
ナレーション「正しくは“おんたらく そわか”である」
……そう言えば、かつて大姫(演:南沙良)が唱えていましたね。あれは北条政範(演:中川翼)が生まれて間もないころのこと。
♪おんたらく~そわか~♪
「はい、みんな一緒に!」
訳も分からずつき合って(唱えて)いたあの呪文が、謎サブタイトルの伏線だったんですね。
それを時政がうろ覚えでオンベレブンビンバ~♪と。
あの頃は、みんな一緒で、みんな笑顔で……もう遠い昔しのことです。
いかにも「ombre per un bimbo(イタリア語で『子供のための影』)」「ombre bun bimba(同じく『かわいい娘の影』)」など意味ありげに思わせておいて、視聴者を振り回すという巧みな誘導でした。
SNSでは一体何事なのかと「#鎌倉殿オンベレブンビンバ知ったかぶり選手権」とか「#ぼくのかんがえたオンベレブンビンバ」などとハッシュタグを作って盛り上がっていましたが、筆者を含めほとんどの視聴者がしてやられたことと思います。
さて、謎サブタイトルの意味がわかったところで、その正解であるところの「おんたらく そわか」って何なのでしょうか。さっそく調べてみましょう。
「おんたらく そわか」とは虚空蔵菩薩の真言
結論から言いますと、「おんたらく そわか」とは虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ。आकाशगर्भ/アーカーシャガルバ)の真言(厳密にはその一部)です。
真言(しんごん。御真言)というのは「人間の言葉で表現するのは難しいけれど、仏様の本質を表した言葉」であり、要は「唱えることで法力やご加護が得られる護身の呪文」とでも言ったところでしょうか。
虚空蔵とは虚空≒宇宙の母胎を表し、無限の広がりをもった宇宙のような知恵と慈悲をお授け下さる菩薩様として、広く信仰を集めてきました。
ちなみに明けの明星(金星)は虚空蔵菩薩が現世にお姿を現したものとされ、明星天子(みょうじょうてんし)や大明星天王(だいみょうじょうてんのう)とも呼ばれます。
ちなみに「おんたらく そわか」は真言の一部で、フルバージョンは「おん ばざらあらたんのう おんたらく そわか(Oṃ vajraratna, Oṃ trāḥ svāhā)」。
またこれと別に「のうもう あきゃしゃきゃらばや おん あり きゃまりもり そわか(Namo Ākāśagarbhāya, Oṃ ali kalmali mauli svāhā)」などの真言もあると言います。
虚空蔵菩薩は知恵と慈悲をさずけるほかに記憶も司っており、上記の真言を百日間で百万遍(つまり1日10,000回!)唱える「虚空蔵求聞持法(こくうぞうぐもんじほう)」の修行を達成できたものは、あらゆるものを記憶し決して忘れなくなるそうです。
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終わりに
話を戻して、大姫がみんなに教えたのは仏様のお慈悲によってみんなを幸せに守ってくれるよう願っていたのでしょう。
政範の時はあまり真面目に唱えなかったから悲しい最期を遂げてしまいましたが、もう誰も喪いたくない思いから、たとえうろ覚えであっても心から唱えていたと思います。
その甲斐あってか、かわいい子供たち(政子・義時・実衣・時房)は天寿をまっとうできたのでした。
なお、お察しの通りこのエピソードを裏づける史料は残っておらず、大河ドラマのオリジナル設定です。しかし時政の深い家族愛をしみじみと感じるよいアレンジだったのではないでしょうか。
次週、第38回放送「時を継ぐ者」ではいよいよ時政・りく(演:宮沢りえ)夫婦の追放劇。子供たちと最後に団らんのひと時を持った時政が、どれほどあの時に戻りたかったことか、その胸中を察しながら見届けたいところです。
※参考文献:
- 大宮司朗ら『印と真言の本 神仏と融合する密教秘法大全』学研プラス、2004年2月
- 佐藤任『密教の神々 その文化史的考察』平河出版社、1979年2月
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